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記者が行く!
~第1回若手リーダーを対象とするビジネスと人権に関する日ASEAN諸国等共同研究~

記 者

皆さま、こんにちは!

今回は、8月26日(月)から9月4日(水)にかけて行われた「第1回 若手リーダーを対象とするビジネスと人権に関する日ASEAN諸国等共同研究」について、法務総合研究所国際協力部(ICD)の担当者にお話を伺ってきました。

さっそくですが、この共同研究の対象となっている「ビジネスと人権」とはどのようなものなのでしょうか?

担当者

「ビジネスと人権」とは、国連人権理事会で平成23年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持されたことをきっかけに世界的に注目されるようになった考え方です。この指導原則は提唱者の名前を用いてラギーフレームとも呼ばれます。ビジネスと人権は非常に広い概念なので、短く定義することは難しいのですが、ビジネスに関する人権侵害の防止のため、また、現実に発生した権利侵害を救済するためのシステムを国と企業体が整備し、持続可能な経済発展を目指すというものだと考えていただければよいのではないでしょうか。

記 者

確かにニュースなどでも最近聞くことがありますね。日本では具体的に「ビジネスと人権」についてどのような取組をしているのでしょうか?

担当者

例えば、日本政府は、令和2年10月に、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)を策定しています。また、令和4年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が決定されています。このような政府全体の流れを踏まえ、私の所属しているICDでも、日ASEAN 特別法務大臣会合のサイドイベントとして、令和5年7月に公開シンポジウム「ビジネスと人権」を開催しました。

今回ICDが行った共同研究は、昨年のシンポジウムのレガシーと位置づけ、日本の大学で学んでいる ASEAN 諸国を中心とした留学生に参加してもらい、「ビジネスと人権」について一緒に学んでいくことを目的に実施させていただいた次第です。

記 者

ICDはアジアの国々と二国間で法制度整備支援を実施している部署ですから、ASEANに加盟している国とは長年よい関係を築いていると聞いています。そういった意味ではICDが中心となってASEANを中心としてこのような共同研究を行うというのは大きな意義がありますね。

第1回目となる今回は、どのような人が参加したのですか?

担当者

ASEAN諸国を中心に、日本の大学で学んでいる学生15名が参加しました。ASEAN諸国はもちろんですが、より様々な考え方に触れてもらいたいという観点から、例えばバングラデシュやノルウェーといったASEAN以外の国の学生にも参加してもらいました。学生のバックグラウンドも様々で、政治学を学んでいる学生もいれば、すでに裁判官や弁護士としての経験をもっている学生もいました。

記 者

共同研究期間中のプログラムについて教えてください。

担当者

共同研究では、主に、講義受講・ディスカッション・プレゼンテーションの3つのパートで構成しました。

講義では、JETROに所属し、ビジネスと人権の分野で活躍している山田美和先生、ビジネスと人権に関するコンサルタント等の経験をもつ弁護士の小松健太先生から講義をいただきました。また、ICDの教官も、裁判官出身の教官からは日本における司法救済の仕組みについて、検察官出身の教官からは日本の裁判例を参考にしたビジネスと人権の実践についてそれぞれ講義しました。

グループディスカッションでは、実際の裁判例の事案を用いて、参加者が裁判官の立場であると仮定した場合、ビジネスと人権という観点からどのような結論が考えられ、その結論を支える根拠をどのように構築するかといった点について検討してもらい、それを発表してもらいました。

プレゼンテーションは、共同研究の最後に、各参加者に、ビジネスと人権という観点でそれぞれの参加者の国で問題となっていること、今回学んだことがその問題にどのように活用することができるかといった点を発表してもらいました。

記 者

参加してくれた学生の様子はどうでしたか?

担当者

参加してくれた学生は非常に優秀でした。ビジネスと人権という考え方自体が比較的新しく、かつ、非常に広い概念なので、企画している我々としても、当初は、共同研究として成功するか不安を抱えていました。ただ、参加いただいた学生は講義の場面では講師の講義内容を適切に理解した上で的確な質問をしていましたし、ディスカッションでも活発な議論をしてくれました。ディスカッションでは、例えば、こちらが特段提案していないにもかかわらず、自分たちの国や日本だけではなく、様々な国の考え方を積極的に調べ、その内容を盛り込んで発表するなどの様子もみられました。

最終日のプレゼンテーションでも、みなさん自分たちの国で問題となっているテーマを適切に選び、それがビジネスと人権という観点からどう解決することが考えられるのかを丁寧に論じることができていました。本当にそれぞれの国が抱えている問題は多様で、例えば遊牧民の生活様式と鉱物採掘企業との関係を論じてくれた学生もいましたが、おそらく日本では容易に思いつかないような問題が彼ら・彼女らにとって身近な問題としてあるのだと強く感じました。

また、余談ですが、参加してくれた学生たちは年齢も若いためか、スライドの作成も得意で、最終日のプレゼンテーションでは、短期間に作成したとは思えない洗練されたデザインのものが多く、こちらから、「どうやってこのデータ作ったの?」とついつい聞いてしまうほどでした。

講義の様子
講義の様子
講義の様子
講義の様子
参加者との集合写真

参加者との集合写真

記 者

今回は第1回ということで初めての開催となりましたが、今回やってみた反省や課題などはありますか?

担当者

やはりいろいろな国の学生が一緒になって1つのテーマについて議論するというのはとても意義のあることだと感じました。今回は外国の留学生を対象としたのですが、次回以降は、日本の学生にも参加してもらい、日本の学生にも知見を広げてもらう1つの機会になるような共同研究にできたらと考えています。

また、何度か述べているとおり、ビジネスと人権というのは非常に広い概念ですので、我々共同研究を実施する側としても継続してこの分野についてしっかりとフォローしていかなければと思っています。例えばEUなどでは、ビジネスと人権に関連する立法として、Corporate sustainability due diligence Directive(CSDDD)の制定に動くなどしているところですので、広く世界的な動きについても注目しておく必要があると思っています。

記 者

第2回以降の開催も楽しみにしております!今回はありがとうございました!!