検索

検索

×閉じる
トップページ  >  白書・統計・資料  >  白書・統計  >  白書  >  犯罪白書  >  平成18年版犯罪白書のあらまし(目次) >  平成18年版犯罪白書のあらまし 〈第6編〉 特集 刑事政策の新たな潮流

平成18年版犯罪白書のあらまし 〈第6編〉 特集 刑事政策の新たな潮流

〈第6編〉 特集 刑事政策の新たな潮流

 最近の犯罪動向の分析
 一般刑法犯の認知件数が戦後最少を記録した昭和48年以降の犯罪動向を,3期に分けて分析した。各期における一般刑法犯の認知件数の動向を概括的に把握すると,以下のとおりである。

 ( 1) 第I期(昭和48年から平成7年の間)
 第I期は,昭和48年から,戦後最多を記録した平成14年に向けての増加開始前の時期で前年と比べてわずかに減少を記録した最後の年である7年までの時期である。
 この期において,一般刑法犯の認知件数は,約59万件増加している。同期の窃盗の認知件数を見ると,この時期の全体の増加分にほぼ等しい約60万件の増加となっている。窃盗を除く一般刑法犯の認知件数は,ほぼ横ばいに推移している。

 ( 2) 第II期(平成8年から14年の間)
 第II期は,平成8年から戦後最多を記録した14年までの時期である。
 第I期の最終年である平成7年から14年にかけて,一般刑法犯の認知件数は,約107万件増加した。同期の窃盗を見ると,約81万件増加しており,この時期の全体の増加分の約75%を占める。第I期と異なり,窃盗を除く一般刑法犯の増加分が相応の部分を占めている。窃盗を除く一般刑法犯は,特に,12年以降,急増している。

 ( 3) 第III期(平成15年から17年の間)
 第III期は,認知件数が減少の兆しを見せ始めた平成15年から17年までの時期である。
 第II期の最終年である平成14年から17年にかけて,一般刑法犯の認知件数は,約58万件減少した。同期の窃盗を見ると,約65万件の減少となっており,この時期の全体の減少数を超えている。窃盗を除く一般刑法犯は,逆に増加したこととなる。窃盗を除く一般刑法犯は,16年まで増加を続けており,同年にピークを記録した後,17年にはやや減少した。
 窃盗の手口を,主として街頭又は屋外で行われることの多い街頭窃盗(車上ねらい,自動販売機ねらい,部品ねらい,自動車盗,オートバイ盗,自転車盗及びひったくりをいう。)とその他の窃盗に分類し,その認知件数の推移を見たところ,街頭窃盗は,第I期においても増加傾向を示していたが,第II期に入ると急増しており,この期の窃盗の増加分の約63%を占めていた。街頭窃盗のピークは,平成13年であるが,15年以降急減しており,14年から17年の間の窃盗の減少分(約65万件)のうち,街頭窃盗は約54万件(約82%)を占める。第I期及び第II期における窃盗の増加,第III期における減少の相当部分が,街頭窃盗の増減によるものであることが分かる。
 第II期における窃盗を除く一般刑法犯の急増の主要因となったのは器物損壊であった。第III期に入って,車を対象とした犯罪は,諸対策の強化によって減少の兆しを見せているが,それ以外の犯罪は,依然として高水準のものが多い。特に,暴行及び詐欺は,平成17年も増加しており,犯罪情勢全般が回復したとは言い難い状況が続いている。

 刑事政策の動向
 ( 1) 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」等
 犯罪情勢の悪化を受けて,政府は,平成15年12月,犯罪対策閣僚会議において,「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」,「犯罪の生じにくい社会環境の整備」及び「水際対策を始めとした各種犯罪対策」の3つの視点を前提としつつ,今後5年間を目途に,国民の治安に対する不安感を解消し,犯罪の増勢に歯止めをかけ,治安の危機的状況を脱することを目標として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画―「世界一安全な国,日本」の復活を目指して―」を策定した。同行動計画は,「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」,「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」,「国境を越える脅威への対応」,「組織犯罪等からの経済,社会の防護」及び「治安回復のための基盤整備」の5つの重点課題を設定し,それぞれについて具体的な施策を推進することとした。このほかにも,政府は,様々な視点からの犯罪対策を立案・実施している。

 ( 2) 地域の犯罪予防活動
 地域住民による自主防犯活動は,最近,盛り上がりを見せている。平成17年12月31日現在,警察庁が把握している防犯ボランティア団体の数は,1万9,515団体,構成員数は,119万4,011人であった。16年同日現在と比べ,防犯ボランティア団体数では約2.4倍,構成員数では約2.3倍と大幅に増加している。主な活動内容を見ると,約81パーセントの団体が徒歩による防犯パトロールを,約66%の団体が通学路における子どもの保護・誘導を実施している。

 ( 3) 最近の立法動向
 近年,社会・経済状況の変化等を踏まえ,時代の要請に的確に応じた刑事その他の立法が行われている。これらの立法の中には犯罪を防止し,事案の実態に即した対処を可能とし,あるいは犯罪被害者のための施策を講ずるなど,治安の回復や国民の不安の解消に資するものも多い。

 ( 4) 受刑者処遇の充実強化
     ア 過剰収容等を解消するための取組
 刑事施設における厳しい状況を改善し,受刑者処遇の充実強化を実現するための基盤整備として,刑事施設の改築拡大等による収容定員の拡大,美祢社会復帰促進センター(仮称)を始めとするPFIの手法を活用した刑事施設の整備・運営,矯正業務の一部を民間に委託するアウトソーシング等の方策が講じられている。
イ 受刑者処遇の充実強化
 平成18年5月24日から施行された刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律は,受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを受刑者処遇の基本理念とした上,「処遇の個別化の原則」を採ることを明らかにした。この原則の下,個々の受刑者の資質及び環境に応じ,その者にとって最も適切な処遇が行われる。
 また,受刑者処遇の中核として,「作業」,「改善指導」及び「教科指導」から成る「矯正処遇」という概念を新たに導入し,受刑者は,刑執行開始時及び釈放前の指導とともに,これを受けることを義務付けられた。
ウ 再犯防止のためのその他の対策
 [受刑者の釈放等に関する情報の提供]
 平成17年6月1日,法務省は,警察庁に対し,子供を対象とする暴力的性犯罪を犯した受刑者に関する出所情報の提供を開始した。これに加え,同年9月1日,法務省は,警察庁に対し,殺人,強盗等の凶悪重大犯罪及びこれらの犯罪に結び付きやすく再犯のおそれが大きい侵入窃盗,薬物犯罪等に係る出所情報の提供を開始した。
 [刑務所出所者等に対する就労支援制度]
 受刑者の出所後の生活基盤の確保は,再犯防止の観点から重要であることから,法務省は,厚生労働省等の関係機関と連携を図り,刑務所等からの出所者に対する就労支援に取り組んでいる。

 ( 5) 更生保護制度の改革の方向
 法務省は,「更生保護のあり方を考える有識者会議」が,平成18年6月,法務大臣に対して提出した「更生保護制度改革の提言―安全・安心の国づくり,地域づくりを目指して―」を踏まえ,(1)保護観察官の責任を明確化するとともに,再犯防止に実効性のある処遇方法を開発し,実施すること,(2)保護観察官と保護司との役割を整理し,保護観察官は,権力的な措置を必要とする処遇困難な対象者にその業務を最大限集中すること,(3)更生保護の既存の業務及び組織体制を見直し,保護観察官が,専門職として保護観察の現場の業務に専念できる組織体制を構築すること,(4)自立更生促進センター(仮称)構想を推進し,充実した就労支援を行うとともに,特に強化された処遇を行うことのできるセンター体制を設け,改善更生及び再犯防止を促進することなどに取り組んでいる。

 ( 6) 不法入国・不法滞在対策等の推進
 法務省は,平成17年3月策定の「第3次出入国管理基本計画」に基づき,水際対策の推進,綿密な情報分析と関係機関と連携した強力な摘発,効率的な退去強制手続等のための制度の見直し等の不法入国・不法滞在対策等を強力に推進している。

 性犯罪の現状と対策
 ( 1) 性犯罪の概況
     ア 性犯罪の動向
 強姦の認知件数は,平成9年以降増加傾向にあったが,16年及び17年と2年連続して減少し,17年は2,076件であった。検挙率は,11年以降低下し,14年には戦後最低を記録した。翌15年以降は上昇傾向に転じ,17年は69.5%であった。
 強制わいせつの認知件数は,平成11年以降急増し,15年に戦後最多となった後,16年及び17年と2年連続して減少し,17年は8,751件であったが,なお高水準にある。検挙率は,11年以降急低下し,14年には戦後最低を記録した。翌15年以降は上昇傾向に転じ,17年は43.4%であった。
イ 年少者に対する性犯罪
 13歳未満の年少者を被害者とする強姦の認知件数は,横ばい傾向にあり,平成17年は72件であった。一方,13歳未満の女子年少者を被害者とする強制わいせつの認知件数は,平成9年以降増加傾向にあったが,16年及び17年と2年連続して減少し,17年は1,275件であった。13歳未満の男子年少者を被害者とする強制わいせつの認知件数は,12年以降100件台で推移しており,17年は109件であった。
ウ 検挙人員から見た性犯罪者
 強姦の検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)を見ると,少年では,平成10年に最近10年間のピークとなった後,減少傾向にあり,17年は153人であったが,成人では,1,000人前後で増減を繰り返しており,17年は932人であった。
 強制わいせつの検挙人員(触法少年の補導人員を含む。)を見ると,少年では,おおむね横ばい傾向にあり,17年は391人であったが,成人では,ゆるやかな増加傾向にあり,17年は2,004人であった。

 ( 2) 性犯罪者の実態と再犯状況
 性犯罪者の再犯状況等に関する実態の解明を求める声が高まったことを背景として,法務総合研究所では,性犯罪者の実態と再犯に関する特別調査を実施した。この特別調査では,「性犯罪」とは,強姦,強制わいせつ,わいせつ目的拐取及び強盗強姦をいい,「性犯罪者」とは,確定判決の罪名に性犯罪が含まれる者をいう。特別調査は,大別して実態調査と再犯状況調査に分かれる。
     ア 性犯罪者の実態
 実態調査の結果に基づき,在所受刑者(平成17年6月1日現在全国の刑事施設において在所受刑中の性犯罪受刑者1,568人)の類型別の特徴を見ると,小児わいせつタイプ(被害者に13歳未満の者を含み,罪名が強制わいせつ(わいせつ目的拐取を含む。)のみである単独犯行の者をいう。以下同じ。)では,性犯罪前科のある者や知能の低い者の比率が高く,集団強姦タイプ(被害者に13歳未満の者を含まず,罪名に強姦を含み,共犯による犯行がある者をいう。以下同じ。)では,犯行時年齢30歳未満の者や初回入所者の比率が高いなどの特徴が見られる。保護観察対象者(16年7月1日から同年12月31日までに全国の保護観察所で新規に受理した性犯罪保護観察対象者(仮釈放者及び保護観察付き執行猶予者)330人)につき,担当保護観察官において把握した生活上の問題点を見ると,仮釈放者の小児わいせつタイプにおいて,内気で自信に乏しく,ストレスをためやすいなどの特徴が見られる。
 性犯罪者の再犯状況(第5図第6図参照
 調査対象者は,平成11年中に刑事施設を出所した性犯罪受刑者672人(以下「出所受刑者」という。)及び12年中に執行猶予判決を受けた性犯罪者741人(以下「執行猶予者」という。)である。これらの対象者の16年12月31日までの再犯状況(危険運転致死傷,業過及び道交違反による再犯を除く。)について調査した。
 出所受刑者の再犯率は,39.9%(満期出所者では63.3%,仮釈放者では30.8%)であり,性犯罪再犯率は,11.3%(満期出所者では19.1%,仮釈放者では8.3%)であった。これに対し,執行猶予者の再犯率は,13.5%(保護観察付き執行猶予者では18.8%,単純執行猶予者では12.1%)であり,性犯罪再犯率は,3.8%(保護観察付き執行猶予者では7.1%,単純執行猶予者では2.9%)であった。
 出所受刑者及び執行猶予者の再犯率を,性犯罪再犯率とその他の犯罪(性犯罪,危険運転致死傷,業過及び道交違反を除く。)の再犯率に分け,これらを類型別に見ると,性犯罪再犯率は,小児わいせつタイプが最も高く,集団強姦タイプは0%であった。
ウ 年少者をねらう性犯罪の実態
 受刑の原因となった性犯罪の被害者に13歳未満の者が含まれている出所受刑者99人の受刑の原因となった性犯罪のほか,性犯罪前科及び出所後の性犯罪再犯の中から,13歳未満の者を被害者とする性犯罪310件を抽出し,犯行態様等の分析を行った。この分析結果を見る限りでは,犯行は平日が多く,犯行時間帯は午後2時台から4時台に集中し,犯行場所は路上が最も多く,年齢別被害者数では満7歳が突出して多かった。小学校の下校時間帯の帰宅途中で性犯罪被害に遭いやすく,年少者が1人になったときが特に危険であることがうかがわれた。

 ( 3) 性犯罪者に対する刑事処分の概況
     ア 検察
 平成17年における起訴率は,強姦65.8%,強制わいせつ58.2%であった。
イ 裁判
 強姦(強姦致死傷を除く。)の通常第一審における科刑状況を見ると,5年を超える有期懲役を言い渡された者の比率は,上昇傾向にあり,平成17年は23.8%であった。執行猶予付きの判決を言い渡された者の比率は,低下傾向にあり,17年には17.2%であった。

 ( 4) 性犯罪者処遇プログラム
 法務省は,平成18年度から,矯正,更生保護を通じて,受刑者又は保護観察対象者である性犯罪者に対し,性犯罪者処遇プログラムの実施を開始した。同プログラムは,認知行動療法の理論を基礎として,グループワーク等を通じて自ら性犯罪を抑止する力を身に付けさせることを目標として行われる科学的,体系的な再犯防止プログラムである。

 司法制度改革
 ( 1) 刑事裁判の充実・迅速化等
 現在,司法が直面する最重要課題ともいえる司法制度改革は,刑事司法の分野においても,着々と進展している。これまでに,公判前整理手続及び即決裁判手続の創設等の刑事裁判の充実・迅速化を図るための諸方策の導入,被疑者に対する国選弁護人の選任制度の導入等の国選弁護人制度の整備(一部未施行)及び検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度の導入(未施行)等を定める刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)の一部が施行されたほか,21年5月までには,裁判員制度の導入(未施行)を内容とする裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)が全面施行される。

 ( 2) 裁判員制度
 平成17年における裁判員裁判(未施行)対象事件通常第一審終局総人員は,3,231人(前年比2.3%減)であった。
 平成17年における裁判員裁判(未施行)対象事件通常第一審終局総人員の開廷回数別構成比を見ると,開廷回数が3回以下であったものが全体の約39%を占める。平均開廷回数は,5.8回であり,平均審理期間は,8.3月であった。
 平成17年11月1日から18年4月30日までの間に,公判前整理手続に付された裁判員裁判(未施行)対象事件のうち,同日までに第一審で判決の言渡しがあったものは35件あり,その開廷回数別構成比を見ると,3回以下が約71%であった。

 ( 3) 裁判員制度実施に向けての問題点と方策
 裁判員制度を円滑に実施するに当たっては,現在,裁判員として裁判に参加する意欲の乏しい者が多いこと,裁判員として参加するに当たっての日程調整の困難性や心理的不安を訴える者が多いこと,現状の裁判では開廷回数が多いことなどの問題点がある。国民の理解と協力を確保する上で,裁判員として参加しやくするための環境作りを適切に行うこと等が大切である。

 おわりに
 今後の刑事政策の在り方を考えるに当たっては,(1)地域社会における犯罪抑止力の再生,(2)有効な再犯防止対策の確立,(3)犯罪被害者等の権利の保護等という3つの課題が重要であると思われる。
 司法制度改革によって,刑事裁判における国民の司法参加が端的な形で実現されようとしている今,刑事政策の今後を展望すると,刑事司法が,国民に向かって一層開かれた存在となる必要性が痛感される。
 刑事司法関係機関は,今後も,なお一層地域社会等との交流,連携を深め,国民に開かれた存在となるとともに,その活力と良識を自らの中に積極的に取り込むための努力を行わなければならない。そして,そのことによって自らの機能を高め,公共の安全と秩序の確保のため更に貢献することが望まれる。
 そこに,刑事政策の新たな潮流が進むべき方向があるように思われる。



● 目次
 
○ 〈はじめに〉
○ 〈第1編〉犯罪の動向
○ 〈第2編〉犯罪者の処遇
○ 〈第3編〉各種犯罪者の動向と処遇
○ 〈第4編〉少年非行の動向と非行少年の処遇
○ 〈第5編〉犯罪被害者
○ 〈第6編〉特集-刑事政策の新たな潮流-
  〈資料編〉【PDF】

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。
リンク先のサイトはAdobe Systems社が運営しています。

※上記プラグインダウンロードのリンク先は2011年1月時点のものです。