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アジ研による初めてのオンライン国際研修(汚職防止)について

1 アジ研の研修とは

国連アジア極東犯罪防止研修所(アジ研)は,国連との協定に基づき,約60年間,開発途上国の刑事司法実務家を対象とした国際研修を実施してきました。従来は,参加者が約1か月アジ研の寮で生活しながら交流を深め,6,000人以上の卒業生のネットワークを築いてきましたが,新型コロナウイルスの流行により海外からの渡航制限が続いているため,令和3年の秋,初めてオンラインでの国際研修を実施することとなりました。

2 汚職防止に関する研修

今回の研修は,国連腐敗防止条約の効果的実施を支援するもので,令和3年で23回を数えます。テーマは,「高度情報化・国際化社会における汚職の新たな脅威とその対処」であり,電子証拠の収集・分析や,汚職の効果的発見,通報者・証人の保護や国際協力に焦点を当てました。

令和3年9月22日から同年10月18日までの約1か月間,19か国から27名が参加して実施されました。

3 オンライン上の工夫

最大で17時間もの時差の対応として,1日に2回同じセッションを行いました。また,普段の生活を送りながら研修を受ける参加者のため,1日の参加時間を2時間とし,自分の予定に合わせて事前録画講義をオンデマンド受講した上,質問を提出し,ライブセッションでの質疑応答に臨めるようにしました。講義動画やライブセッションの録画により効果的復習が可能になったのは,オンラインならではのメリットでした。

一方,来日研修のように,いつでも参加者や教官と議論できるよう,オンライン上の質問箱やチャットルーム,バーチャル会議など,時間外の交流の場も設けました。

4 研修の様子

初日に,互いの人となりを理解できるよう自己紹介をし,スタッフは日本の自然や文化も紹介しました。

日本の制度については,アジ研教官から,オンデマンドとライブを併用して講義を行い,続いて,警察庁,米国司法省,シンガポール汚職捜査局からも,国内外の最新の知見につき講義いただきました。外部講義は全てオンデマンドでしたが,ライブでの質疑応答ではいずれも活発に意見が出され,来日研修に勝るとも劣らない白熱ぶりでした。

各班では,参加各国での実務や課題に関する個人発表を行いました(これも全て録画し,異なる班の発表も視聴できるようにしました。)。課題として,電子証拠解析の専門家の不足,通報者保護法制の未整備といった各国の困難な現状のほか,国内関係機関の連携の難しさや,外国の電子証拠を収集して証拠とする際のハードルなど,各国に共通する問題が指摘された上,成功例・失敗例を問わず様々な実務が共有されるなど,大変有意義な討議が行われました。

最後に,各参加者たちが研修成果の活用につきアクションプランを発表し,まとめとしました。

第23回汚職防止に関するオンライン研修の様子

第23回汚職防止に関するオンライン研修の様子

おわりに

参加者からは,対面でざっくばらんな情報交換もしたかったが,多くの知識を得られ有益だったという感謝の声が寄せられました。スタッフ側も,毎朝画面に向かってあいさつしていた1か月が終わると寂しく感じられ,バーチャルな場でも,同じ時間を共有して真剣に議論した一体感は,かけがえのない絆を生むと感じました。

こうして,初のオンライン研修は盛況の内に幕を閉じました。今後もオンライン形式の活用が見込まれますが,さらにバージョンアップを図り,世界の刑事司法がより良くなるお手伝いを続けてまいります。