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難民認定制度の沿革
昭和25(1950)年12月14日の第5回国連総会で採択された決議に基づき、26か国代表から成る全権会議がジュネーブで開催され、昭和26(1951)年7月28日、「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」という。)が採択された。難民条約は、難民問題に国際的に取り組むために、締約国に、難民を迫害が待つ所に追放又は送還しないこと及び自国に滞在する難民については積極的に諸種の権利を認めること等を義務付けたものである。
我が国は、難民の受入れを、国際社会において果たすべき重要な責務と認識し、昭和56(1981)年に難民条約に、次いで昭和57(1982)年には「難民の地位に関する議定書」(以下「議定書」という。)に順次加入したが、それらへの加入を控えた昭和56年3月13日の閣議において、難民認定事務の取扱いに関し、「条約及び議定書の実施に伴う難民の認定は、政府として統一的に行うこととし、法務大臣がこれを主管するものとする」ことが了解された。そして、この閣議了解を受けて、それまでの「出入国管理令」に現在の難民認定制度を盛り込んだ「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管法」という。)が定められ、難民条約及び議定書が効力を生じた昭和57年1月1日、これが施行されて、現在に至っているものである。
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我が国の難民認定制度における「難民」の意義
入管法にいう「難民」とは、難民条約及び議定書が定める「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由として本国(無国籍者にあっては常居所国)において迫害を受ける十分に根拠のあるおそれが存在し、そのために外国に逃れている者であって、そのようなおそれのために本国の保護を受けることができず又は受けることを望まないもの(無国籍者にあっては常居所国へ戻ることができず又は戻ることを望まないもの)」とされている。
したがって、我が国の難民認定制度においては、「迫害を受けるおそれがある」ことが極めて重要な要因となるが、その反面,避難を必要としている者であっても、その原因が、例えば、戦争、天災、貧困、飢饉等にあり、それらから逃れて来る人々については、難民条約又は議定書にいう難民に該当するとはいえず、「難民」の範疇には入らないこととなる。
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難民認定手続等
2-3-1 申請期間
難民の認定を申請する者は、日本に上陸した日、あるいは我が国にいる間に難民となる事由が生じた場合はそのことを知った日から60日以内に申請を行うこととされている。
これは、外国人が本国における迫害から逃れて我が国に庇護を求める場合、速やかにその旨を表明することが通常であることから、日本の地理的、社会的実情から見て、申請窓口である地方入国管理官署に行くために必要と考えられる期間として設定されたものと説明されている。ただし、事故・病気等のやむを得ない事情がある場合には、60日を経過した後であっても難民認定の申請をすることが可能とされている。
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2-3-2 立証責任及び事実の調査
難民であることの立証責任は,申請者に課せられている。もっとも、難民認定の申請者は、一般に我が国においてその立証を行うことが困難な場合が少なくない。そこで、申請者の提出した資料のみで適正な認定ができないおそれがあるときは,難民調査官が事実の調査をすることとされており、難民調査官は、この調査のため必要があるときは、関係人に対し出頭を求め、質問をし、又は文書の提示を求めることができることとされている。公私の団体等に照会して必要な事項の報告を求めることも認められている。
難民認定の過程における「事実調査」は容易でなく、そのために処理が長期化する案件も少なくない。特に最近は、認定制度を濫用する者が各種証明書を偽造するなどして行使する事案が増加しており、事実認定は一層困難かつ複雑となりつつある。
このため、法務省では、難民調査官の数を増やしたり、難民調査官に対する研修体制を充実するなどして、調査能力の向上に努めているが、今なお難民調査官の人員不足は否めない。
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2-3-3 難民の認定・不認定の通知及び不認定に対する異議の申出
法務大臣が難民の認定をしたときは、申請者に対し難民認定証明書が交付され、認定をしないときは、申請者に対し理由を付して不認定である旨が通知される。
難民と認定されなかった者は、その処分に不服があるときは、通知を受けた日から7日以内に法務大臣に対して異議を申し出ることができる。
行政不服審査法においては、行政処分に不服のある者は60日以内に異議を申し立てることができるとされているが、難民認定手続については同法の適用が除外されている。これは、難民の認定に関する処分の当否は早期に決着をつける必要があること、難民であるか否かは本人が最もよくこれを知り得る立場にあることなどから、難民該当性を否定する処分に対する異議申出の期間を7日以内と定めた旨説かれている。
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2-3-4 難民認定の効果
難民と認定された外国人は、その効果として、難民旅行証明書の交付を受けること、永住許可要件が一部緩和されること、退去強制事由に該当する場合でも法務大臣による在留特別許可を受けることが可能となること、などの効果がある。
また、社会保障の面から見ると、自国民あるいは一般外国人と同じ取扱いがなされるため、我が国において国民年金や児童扶養手当等の受給資格が得られることとされている。
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我が国における難民認定状況の概要
難民認定制度が発足した昭和57年から平成13(2001)年までに難民として認定された者は、合計291名である。最近は、認定される者が増加傾向にあり、平成12年は22名であったが、平成13年は26名が認定されている。
難民認定率(認定数/認定数と不認定数の和)を見ると、平成12年における我が国の認定率は約14パーセント(認定数22名、不認定数138名)である。なお、各国の難民認定数や認定率は、その地理的・歴史的背景などから単純には比較できないが、イギリスの認定率は12パーセント(認定数1万185名、不認定数7万1,885名)、ドイツは15パーセント(認定数1万1,446名、不認定数6万3,437名)、オランダは7パーセント(認定数1,808名、不認定数2万2,824名)、スウェーデンは2パーセント(認定数480名、不認定数2万658名)である。
また、平成13年を例にとると、難民として認定されなかったものの人道的観点から特に在留を認められた者が67名おり、難民として認定された者と合わせて93名、約27パーセントの者が実質的に我が国の庇護を受けている。
なお、昭和50年代、インドシナ三国(ヴィエトナム、ラオス、カンボディア)で相次いで政変が発生し、社会主義体制へと変革されたことに伴い、新しい体制の下で迫害を受けるおそれのある人々や新体制になじめない人々が難民となって周辺諸国へ流出を始めた。これらのヴィエトナム難民、ラオス難民及びカンボディア難民を総称してインドシナ難民という。昭和50年から平成13年までの間に、我が国には1万4,322人のインドシナ難民が入国し、そのうち1万797人が我が国での定住を認められている。
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