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「人口減少時代における出入国管理行政の当面の課題~円滑化と厳格化の両立に向けて~」

 

第1  はじめに-今後見込まれる状況変化と出入国管理行政の役割
 我が国では、急速な少子・高齢化が進行しており、総人口が減少する時代も目前に控えている。このような状況下においては、生産年齢人口の減少に伴い、働き手の減少による経済活動の停滞も懸念される。
 高齢化や人口減少の急速な進行が今後の経済成長や国民生活に与える影響については、様々な政策努力によって対応していくことが必要と考えられるが、出入国管理行政としても、我が国の経済活力及び国民生活の維持、向上に貢献していくため、そのような時代における外国人の受入れの在り方について考え方を整理すべき時期に来ている。
 また、企業活動の国際化の進展に伴って、外国人労働者受入れの一層の円滑化を求める声が強まっているが、その受入れ範囲の拡大ばかりでなく、これまでも受入れ可能である専門的、技術的分野の外国人労働者をより受け入れやすくするための方策も必要である。
 もっとも、出入国管理行政は、テロリスト等我が国の治安を脅かす者の入国を確実に阻止するとともに、悪質な不法滞在者やブローカー等の取締りを強化し、現在約25万人と推定される不法滞在者を平成20年までに半減させるという、我が国の治安と安全の確保のための重い責務を課されているとともに、外国人労働者のみならず、平成15年の時点で年間約500万人にとどまっている訪日外国人観光客の数を同22年(2010年)に1,000万人とする政府の計画に沿って、外国人旅行者の円滑な受入れを促進する責務をも負っている。このように一見相反する厳格化と円滑化という双方の方策を、同時に、的確に遂行していくための課題は山積しており、出入国管理行政の果たす社会的役割はますます重要となっている。
 出入国管理政策懇談会においては、以上のような認識に立って、これまで各種のテーマについて精力的な議論を行ってきた。テーマによっては、すぐに着手すべき短期的課題から、今後の状況変化等を踏まえながら引き続き検討を要する長期的課題まで様々であるが、厳格化と円滑化という課題に的確に対応していくため、検討すべき具体的な措置として掲げた項目の着実な実施・検討を推進していくとともに、現在、法務省において検討中の第3次出入国管理基本計画の策定に当たって、これらの項目が最大限盛り込まれることを期待したい。

 
第2  我が国が必要とする外国人の円滑な受入れ
 1  専門的、技術的分野における外国人労働者の受入れの推進
(1) 専門的、技術的分野における受入れ全般についての基本的考え方と対応
 今後とも我が国経済の持続的な発展を維持していくためには、生産性の向上に資する機器やビジネスモデルの構築を行う人材など、全要素生産性(※1)の向上に寄与するような専門的、技術的分野の人材への需要は一層高まっていくものと考えられる。また、国際的な分業や我が国の構造改革の進展に伴って、可能な限り高付加価値を生み出す分野の発展を図っていくことが重要であり、そのような分野での活躍が期待できる専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れは、今後の我が国経済社会の一層の発展に資するものであると考えられる。加えて、FTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)の進展等に見られるように、近隣諸国を中心とする諸外国との経済的な連携が深化することによって、円滑な経済活動の実際の担い手となるこれらの外国人労働者の受入れニーズは高まっていくと思われる(※2)。専門的、技術的分野の外国人労働者が様々な分野で日本人と協働することにより、多様な価値観や発想による我が国の経済社会の活性化も期待される。
 また、企業の経済活動の変化に伴い、多様な経済活動に対応する新たな形態の専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れニーズが生じていくことも想定されるところ、このようなニーズに的確に対応し、外国人の円滑な受入れを実現することも出入国管理行政には求められている。
 専門的、技術的分野の外国人労働者の積極的な受入れのため、入国管理局においては、これまでも日本のIT関連資格と相互認証された外国の試験等のうち、告示で定めたものに合格等した外国人については、学歴や実務経験にかかわらず入国することを認めることとし、順次その対象を拡大しているほか、構造改革特区における特例措置を講ずる等してきたところである(資料1)。在留資格「外交」、「公用」及び「興行」を除く就労を目的とする在留資格について見ると、新規入国者数は増減を繰り返しているものの(資料2)、在留者数自体はほぼ一貫して増加している(資料3)。今後とも、専門的、技術的分野の外国人労働者の積極的な受入れを図っていくためには、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

 
1 成長会計の手法で経済成長率を要因分解すると、以下の3要因からなる。人口減少下においては、労働投入の減少が経済成長の押し下げ要因となるため、持続的な経済発展を維持していくためには、全要素生産性を向上させることの重要性が一層高まる。
経済成長率=労働の寄与(労働の伸び率×労働分配率)+資本の寄与(資本の伸び率×資本分配率)+全要素生産性の寄与
2 平成15年の「貿易統計」(財務省作成。平成16年3月確定)によれば、ASEAN諸国、中国、台湾、香港及び韓国との貿易額の合計は、平成11年と比べて同15年には輸出で44.0%,輸入で42.4%それぞれ増加しているところ、これらの国・地域出身の「外交」、「公用」及び「興行」を除く就労を目的とする在留資格に係る外国人登録者数は、同期間に26.3%増加した。

 

<検討すべき具体的な措置>
 現行制度の周知、透明性の向上
 ・  入国のための基準の周知等(「技術」や「人文知識・国際業務」等の在留資格については原則として大卒程度の学歴、当該学歴と職務内容との一定の関連性及び日本人と同等程度の報酬を得ることという要件を満たせば足りることの周知等)
 新たな活動形態に係る受入れニーズに対応する受入れ枠組みの構築
 ・  専門的、技術的分野に係る長期出張者等(本邦の事業所と海外の事業所が共同開発事業を実施し、海外の事業所から当該事業のために長期間出張の形態で我が国に入国するような事例等)に対する在留資格の付与
 ・  我が国の資格取得者の受入れ等(経済連携協定交渉(※)を踏まえた秩序ある受入れのための措置等)

 

 

 
 平成16年12月現在、フィリピン,タイ,マレーシア及び韓国との間で経済連携協定の交渉を行っており、フィリピンとの間では看護師、介護福祉士の受入れの枠組みについて大筋合意に達した。タイからは介護士の受入れやタイ料理人の入国要件の緩和等、マレーシアからは会計士、建築士の相互認証等がそれぞれ求められている。

 

 
 ・  その他現行の上陸許可の基準を定めた省令等の企業活動の多様化等を踏まえた見直し
 現行制度下において新たな形態による受入れを認めた事例等、現行制度を利用するに当たって、以後の申請者にとって参考となる事例を積極的に公表し、蓄積
 審査の迅速化・簡素化の推進
 ・  過去に不許可となった事例がないなど、優良な受入れ機関については、引き続き審査時における提出書類の簡素化及び審査の迅速化の措置を継続するとともに、手続に要する負担の軽減を図り、外国人受入れの促進に資する利便性向上を図るため、これらの機関に所属し、あるいは所属しようとする外国人の入国・在留に係る諸申請についてインターネットを活用した電子手続を可能とすることを検討

 

(2) 特に高度な人材の受入れの促進
 専門的、技術的分野の外国人労働者の中でも、特に高度な人材については、国際的な人材獲得競争が繰り広げられており、前記(1)で言及した受入れによる我が国への貢献は更に大きいものと思われる。こうした特に高度な人材については、現行制度においても受入れが可能であり、出入国管理制度上の障壁はほとんどないものと考えられるが、出入国管理行政としてもその受入れ促進のために一定のインセンティブを与えるための措置など最大限の方策を講じていくべきであると考えられる。そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。
 なお、民間企業における取組として、能力評価に基づく賃金制度の構築等高度な人材にとって魅力ある就労環境が提供される必要があるとの意見も出された。

 

<検討すべき具体的な措置>
 「特に高度な人材」の範囲の整理
 ・  例えば研究成果の著しい博士号取得者や、優良大企業の経営者、特に高度な技術者、著名な芸術家など、現在、永住許可の際に社会、経済、文化等の分野において我が国への貢献があると認められ、必要とされる在留歴(※)を短縮しているケースと同程度の功績がある者等が該当すると考えられるが、今後その具体的な範囲について更に検討

 

 

 
 永住許可の要件としている在留歴
 原則としては10年の在留歴が必要であるが、例えば日本人と結婚した外国人などについては婚姻後3年以上本邦に在留していることとされているほか、社会、経済、文化等の分野における我が国への貢献があると認められる外国人については必要な在留歴は5年以上などとされている。

 

 
 一度に付与される在留期間の長期化
 ・  現在、一度に付与される在留期間は3年が最長であるが、特に高度な人材についてはこれを更に長期化し、申請者の負担を軽減することについて検討。また、それ以外の専門分野の人材についても在留期間の長期化の可否について検討(※)。ただし、正規の在留資格を有しながら本来の活動とは異なる活動を行う偽装滞在者の問題があることから、そのような問題の発生を回避する方策を併せて検討することが必要

 

 
 構造改革特区における特例措置として実施されている外国人研究者受入れ促進事業においては、最長の在留期間を5年としているが、平成17年度に全国展開のための措置を講ずることが決まっている。

 

 
 特に高度な人材に係る永住許可要件の緩和等
 ・  永住許可の要件の一つとなる在留歴について、特に高度な人材の場合は、必要となる在留歴を例えば3年程度とすることについて検討するとともに、より長期的には、入国当初より永住資格を付与する可能性も慎重に検討
 在留活動に制限のない在留資格の付与
 ・  在留活動を規制する必要性に乏しく、また多様な企業活動の中で幅広い業務に従事すると考えられる特に高度な人材に対しては、例えば就労活動に制限がない現行の在留資格「定住者」のように、在留活動に制限のない在留資格を付与し、一定期間の在留状況を見た上で永住許可を行うことを検討

 

 2  人口減少時代における出入国管理行政の課題
 急速な少子・高齢化の進展の結果、我が国の総人口は、国立社会保障・人口問題研究所の推計(中位推計)によれば、2006年(平成18年)に1億2,774万人でピークに達した後、2050年(平成62年)には1億60万人にまで減少すると予測されている。また、生産年齢人口については、1995年(平成7年)の8,717万人をピークに減少に転じており、2050年(平成62年)には5,389万人にまで減少すると予測されている。加えて、平成15年の合計特殊出生率は1.29を記録し、我が国の総人口等は中位推計を下回って推移する可能性さえ否定できないと考えられる。仮に今後の各種の政策努力によって出生率が上昇したとしても、労働力として期待し得るまでに20年程度はかかるため、当面は生産年齢人口の減少等が進行することは避けられない状況にある。
 このような人口減少下において、我が国の産業、経済活力を維持、発展させ、国民生活の向上を実現していくためには、様々な分野において考え得る全ての政策手段を講じていくことが必要であり、出入国管理行政としては、先に述べたように専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れを一層推進していくことが重要である。他方、今後の生産年齢人口等の減少の大部分を単に量的に外国人労働者の受入れで補おうとするのは、その受け入れることとなる数が膨大となり、非現実的である。
 しかしながら、長期的には大幅な生産年齢人口の減少が見込まれる中で、労働環境の改善や就業促進策等各種の施策により高齢者や女性の労働力率が上昇したとしても、労働者の働きたい仕事と雇用主の求める仕事の不一致等から、雇用のミスマッチが常態化して人材の確保が進まず、経済活動のボトルネックとなる可能性もある。また、現在よりも相当程度の機械化等によって生産性が向上したとしても、それぞれの産業の特性から、人員の効率化には限界があると考えられ、地域によってはこうした経済活動上の障害が一層顕著に現れる可能性もある。したがって、我が国の経済活力及び国民生活を維持していくため、外国人労働者の受入れについては他分野の施策と併せて検討する必要があり、国民的コンセンサスも踏まえつつ、現在では、専門的、技術的と評価されていない分野での受入れも含めて検討していくことが必要である。
 ただし、必ずしも専門性の高くない労働者を受け入れた場合、その受入れの方式にもよるが、我が国において自立した生活が保障されず、不安定な立場に起因した問題の発生も懸念される。すなわち、一般論として、そのような外国人労働者は比較的短期間の雇用や、業務の繁閑に左右されやすい請負等不安定な雇用形態の下で就労する可能性も高いところであり、雇用の調整弁的に活用される可能性が高い。それ故、技能レベルが高まるようなキャリア形成が難しいほか、企業側もコストをかけて研修等を実施しないことが多いと考えられ、失業した場合等に他の業務に移ることが相対的に困難であると考えられる。加えて、企業活動においては、労働者一般の活用形態も正規雇用より派遣、請負形態が増える傾向にあり、外国人労働者は一層不安定な立場に置かれる可能性が高い。また、諸外国においては、比較的短期の労働需要に応じて受け入れた外国人が一定期間経過後も本国に帰国せずに滞在した結果、国内労働者との摩擦等の問題が発生した例もある。
 したがって、外国人労働者の受入れについて検討する際には、以上のような問題の発生を防止し、我が国社会の安全と秩序を維持しつつ、その円滑な受入れを図る方策を見いだすことが必要である。検討に当たっては、無限定に広範囲な分野での受入れから始めるのではなく、輸入による代替性がなく(又は乏しく)、労働集約的な分野であって、日本国内において将来にわたる継続的なニーズが見込まれる分野であり、かつ国内の労働力確保に支障が生じているケースを個別に特定していくという方法や、日本全国を対象とした施策ではなく、特定の地域社会において、その存立のために不可欠な特定の就労分野での受入れに限定するという方法も検討の対象となり得る。さらに、我が国の文化等を背景とする伝統的な技術又は技能等を伝承する者の不足への対応として、こうした技術等を学び、後世への伝承者として活躍することを希望する素養のある者の受入れを検討するという方法もあり得る。
 ただし、どのような受入れの形態であっても、決して不当に低い賃金で外国人を酷使するようなことがあってはならないという指摘や、適正な就労管理のため関係省庁との緊密な連携が不可欠であり、将来的には更に省庁横断的な対応が重要であるとの指摘があった。また、受入れに伴って過大な社会的コストが生ずることを避けることも重要である。
 なお、今後の各種の政策努力や、産業構造の変化などにもよるが、相当長期的視点に立てば、人口減少が続き、国内消費の縮小による継続的な経済の停滞も起こり得るので、その対応として外国人労働者の受入れを進めるべきとの指摘があった。一方で、人口減少に伴う国内の経済成長への影響は大きくないとの見方がある。また、受け入れた外国人労働者もやがては高齢者となり社会保障の受給者となるほか、外国人の出生率は受入国の数値に近づくという例もある。こうした事情を考慮すると、継続的に一定数の外国人労働者を受け入れ続けなければ所期の目的を達成することができないため、その受け入れる数が膨大となることから現実的ではないとの見方などもある。いずれにしても、より長期的な課題としては、当初より我が国に永続的に定住することを目的とする移民としての外国人の受入れを含め、就労分野や地域を特定することなく、(必ずしも国内消費の縮小に伴う経済の停滞を回避するほど大規模なものではない)一定数の外国人の労働力を確保することも検討の対象になり得ると思われる。現行の外国人労働者受入れ制度は、我が国において行おうとする(就労)活動に着目してその入国の可否を決する制度をとっているが、例えば移民という形態であれば、必ずしもそのような活動に限定されず、その人物の能力の高さを基準として入国の可否を決する方式もあり得る。現に、オーストラリア等では、当該人物に係る能力等をポイントにより評価して移民を受け入れる制度を採用している(資料4)。ただし、現在の同国の制度では,入国のハードル自体は必ずしも低くはないということができるのに対し、我が国の現行制度は、先に述べたように入国のハードルは実際のところ高くない(「技術」や「人文知識・国際業務」等の在留資格については原則として大卒程度の学歴及び日本人と同等程度の報酬)上に,永住への途も開かれており、一般的に10年程度の在留で永住が許可されている。永住許可に当たり、在留期間の更新許可等の際など事前に複数回の在留状況の確認がなされ、我が国社会への定着性等も確認できる制度となっていることから、当面は現行の永住許可制度の運用の推移を見守るべきであろう。
 なお、ポイント制度のほかにも、労働市場テストを採用してはどうかとの意見も出されたが、同制度は基本的には短期的な労働市場の動向を反映するものであるため、季節労働的な労働者を受け入れる際等の有効性は指摘できるものの、長期的な観点からの受入れには適さないのではないかとの見方もある。数量制限については、管理は容易であり、外国人労働者の受入れによる影響を最小限にとどめながら受け入れていく際などの有効性は指摘できるものの、数の設定に困難性が伴うとの見方もある。

 

 3  人材育成を通じた国際関係の展開
(1) 研修・技能実習制度
 研修・技能実習制度は、主として開発途上国の人材育成を支援する国際貢献のための制度である。在留資格「研修」の新規入国者数は年々増加しており、平成15年には初めて6万人を突破し(資料5)、技能実習への移行者数も同年に約2万800人に達する(資料6)など、アジア地域を中心としてこの制度の利用者は増加の一途を辿っている。今後とも、アジア地域全体の経済発展が見込まれる中で、研修生・技能実習生は増加していくことが見込まれ、我が国で修得した技術・技能を活かして出身国の経済発展に貢献することが期待されるほか、日本語や日本の文化に理解を深めた研修・技能実習経験者が増加することは、近隣諸国との経済的な結びつきが強まる中で、研修生等の受入れ企業等の国際的な発展にも資するものと考えられる。
 他方、研修・技能実習制度をめぐる問題点も一部に顕在化している。例えば、地方入国管理局が行った実態調査の結果、平成15年の1年間に92の受入れ機関が不正行為認定されており(※1)、そのほとんどがいわゆる団体監理型の研修(※2)である。不正行為の主な態様は、中小企業団体等の第1次受入れ機関については、監査の虚偽報告及び集合研修の未実施等となっており、研修の実施主体である第2次受入れ機関については、研修生に対する所定時間外の活動の実施、日本語教育・安全教育等の非実務研修を実施しない等研修計画との齟齬、人手不足の他の機関で研修を実施させる等の名義貸し、虚偽文書の作成、不法就労者の雇用等となっている。これらの不正行為の態様から、受入れ企業の一部は、内外の企業との厳しい競争や労働力不足を背景として、研修・技能実習制度を低廉な労働力を確保するための手段であると認識していることが垣間見え、制度趣旨の徹底が図られていない面があることは否めない。他方、多数の研修生・技能実習生が失踪しているが、こうした失踪の背景には、研修生等自身も研修・技能実習制度を報酬を得て働くための手段であると認識しており、高い報酬を目指して失踪することがあると考えられる。また、高い報酬を得ることを目的としていれば、研修手当と技能実習生の賃金との格差に不満を持つケースも少なくないと思われ、特に研修生・技能実習生の受入れ機関は中小企業であることが多いことを考慮すると、研修生・技能実習生で異なる作業をしていたとしても、比較的狭い空間での一連の作業の中で技能実習生と異なる収入を得ることに研修生が不満を持つ傾向は一層高まるものと推測される。こうした問題の背景としては、研修生の選抜段階のほか、入国前や入国直後のオリエンテーションにおいて、研修・技能実習の制度趣旨を理解させる指導が徹底していないことも考えられる。
 このように多様な側面で多くの効果を生んでいるものの、問題事例も発生している研修・技能実習制度については、これまでの実態調査の実施や、「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」の策定等を通じた適正化への取組を踏まえて、今後、実態調査の更なる強化や不正行為認定等を通じた厳格な対応により、まず一層の適正化を図るとともに、制度そのもののプラスの効果が一層発揮されるような取組が重要である。また、実務研修と技能実習という、活動形態が一見して同様であるにもかかわらず在留資格が異なることに起因する問題など、制度的な問題点を克服するための措置についても検討が必要であろう。そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

 
1 不正行為認定された機関は少なくとも現行の上陸許可基準では今後3年間にわたって研修生の受入れができないこととなる。
2 団体監理型の研修とは、中小企業団体や公益法人等を研修事業主体としてこれらの団体の監理の下で研修生を受け入れるもの。これに対し、企業単独型の研修は、海外の現地法人の社員等を受け入れるものである。

 

<検討すべき具体的な措置>
 研修生の選抜時等における制度趣旨の徹底のための指導及び指導状況の確認
 ・  特に初回の受入れの場合や失踪等問題事例が発生した場合等に、制度趣旨の徹底のための取組を確認
 審査の厳格化を通じた研修生・技能実習生の処遇上の問題の把握及び必要な指導等の実施
 ・  研修等に専念できる生活環境の整備を含め、適切な研修・技能実習が行われるよう厳格な審査及び必要な指導を実施
 ・  問題事例の分析を通じたメリハリある審査の実施
 積極的な実態調査の実施と不正行為認定の積極的な活用
 ・  一つの受入れ機関に対し、原則として3年に1回は実態調査を実施
 ・  研修生受入れ機関のみならず、その機関の経営者、管理者、研修指導員等に対する不正行為認定の積極的な実施
 団体監理型研修における第1次受入れ機関の監理責任の強化
 
 ・  監査担当者に対する積極的な指導の実施
 ・  技能実習移行後における監理体制の創設の検討
 企業活動の多様化に応じた企業単独型研修の柔軟な対応
 実務研修と技能実習を合わせた在留資格の創設
 「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」の法令的根拠の創設等
 ・  受入れ体制に関する要件の明確化(客観的な監査を実施し得る体制の整備、不正行為認定された機関の役員等の確実な排除(不正行為認定された機関に属していた役員等が新たな受入れ機関を設立して同様の問題を生じさせることを防止する措置等)等)
 ・  非実務研修の充実等
 制度趣旨の徹底及び研修内容の充実のための制度的担保
 ・  技能実習修了時の技能検定3級相当試験の受験義務化の検討
 再研修のガイドライン化及び許可・不許可事例の公表
 制度の趣旨及び送り出し国のニーズを踏まえた技能実習移行対象職種の拡大と併せ、評価の客観性を担保しつつ、職種の円滑な拡大が可能となる仕組みの構築
 研修生の送り出し国政府に対する各種の協力要請
 適正な技能実習の実施のための労働基準監督署との連携の構築。併せて研修生に係る対応についても必要に応じて連携。

 

(2) 留学、就学
 留学生、就学生の受入れについては、諸外国との相互理解、友好関係の促進に資するものであり、我が国と近隣諸国を中心とする諸外国との経済活動の緊密化が進む中にあって、勉学を終了した後に日本国内で就職し、出身国との経済活動の連携の面で活躍する者や、出身国に帰国後も我が国と様々な面で関係を保ちつつ、活躍する人材も増加している。また、我が国で学ぶ外国人学生の増加は、これらの学生との接点を持つ日本人学生等に対して異なる文化等を背景とした発想や知識等に触れる機会の増加を意味するものである。同じように、これらの外国人学生が我が国企業に就職した場合には、他の日本人従業員に同様の機会を提供するものであり、我が国の経済社会の活性化に資することとなる。このような観点から、入国管理局においては、「留学生・就学生の入国・在留審査の方針」を策定するなどし、問題のない事案については提出書類を大幅に簡素化するなどの措置を講じてその積極的な受入れに資する施策を講じてきたところであり、在留資格「留学」、「就学」での新規入国者数は、それぞれ一貫して増加しているほか(資料7)、これらの在留資格での平成15年末の外国人登録者数はそれぞれおよそ12万人、5万人を突破して過去最高を記録している(資料8)。この結果、各方面に留学生等の受入れのプラスの効果が波及してきているものと思われる。
 しかしながら、近年、真の入国目的が不法就労である者が多く見られるほか、「留学」や「就学」の目的をもって来日しても、十分な資金を持たないために、生活費や学費を支払うことが困難となり、勉学の途中で退学したり、失踪する例、多額の借金をして来日した結果、許可された時間等の条件を逸脱してアルバイトに従事することとなってしまう例、生活に困難を来し、アルバイト先も見つからずに犯罪グループの一員となったり、自ら犯罪に走ることとなる例、更には偽造の卒業証明書、銀行預金残高証明書等を用いるものが多く見られるようになっている。
 今後、アジア地域との経済連携の深化と、中国を始めとする近隣諸国の経済水準の向上に伴い真に勉学意欲を有する者の増加も予想されることから、留学生、就学生の適正な受入れのための措置を引き続き講じつつ、魅力ある留学、就学環境の構築のため、出入国管理行政としても貢献していくことが重要である。そこで、不法残留者が多数発生している国の出身者や不法残留者が発生している教育機関に入学する者に係る経費支弁能力等の審査を引き続き徹底するとともに、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 情報提供の推進
 ・  インターネットを活用した外国語による審査方針の周知等情報提供の推進
 ・  入学時のオリエンテーション等の配付資料に在留手続関連の事項も盛り込んでもらうよう教育機関側に働きかけを行うこと等
 教育機関による学生の管理のための取組の推進
 ・  在留中の学生が本来の就学目的を達成するためには、教育機関側の指導・支援が不可欠であり、定期的な学生との連絡や指導の充実を求めるとともに、大学に在籍中の留学生が在留期間更新を失念する事態等を避けるため、大学についてもいわゆる学校申請取次ぎを促進
 ・  退学者及び我が国で進学、就職等をしない卒業生については、不法残留者、不法就労者とならないよう、受け入れた大学において帰国を指導することも必要
 受け入れた学生の不法残留率に応じた審査方針(※)の大学への適用
 ・  留学生の不法残留者数が増加傾向にある等の問題が指摘されていることから、受け入れた留学生の不法残留率が高い大学には厳格な審査の実施を検討

 

 

 
 日本語学校等については、入国した就学生のうち3%以上が不法残留した場合、以後の受入れの申請時に提出書類について厳格な審査を実施している。

 

 
 在留資格「留学」を付与されて滞在する学生のうち、研究生等の学部正規生以外の者及びその家族滞在者に関する実態調査の実施
 ・  研究生等(※)については、比較的講義の出席に要する時間が少ない上、実際には大学が組織としてその選抜に十分関与していない例もあるため、就労のための隠れ蓑になっているとの指摘もあることから、積極的な実態調査の実施が必要

 

 
 研究生等については、上陸許可の基準を定めた省令において、1週間当たり10時間以上聴講することが要件とされている。

 

 
 問題のない教育機関に係る迅速な申請案件の処理の推進
 中学校、中等教育学校の前期課程での就学を目的とする者の受入れ
 ・  交換留学プログラムの推進等我が国への留学プログラムが多様化する中で、中学校等への就学希望もあることから、寮やホームステイ先の確保、学校による生活面のフォロー等を要件として受入れを検討
 留学生の就職のための在留資格変更許可申請に対する柔軟な対応の明示
 ・  就労のための在留資格への変更に当たって、大学の授業における専攻と就職後の活動に何らかの関連性が認められれば在留が許可される旨を明示
 在留資格「留学」の活動へのインターンシップとしての就労活動の追加
 ・  教育課程の一環としてのインターンシップの活用が促進されることが見込まれる中で、留学生についても、報酬を伴うインターンシップに対するニーズを見極めながら、これを許容することを検討
 卒業後の就職活動を行う場合の滞在期間の更なる延長
 卒業後の就職までの間における滞在の容認
 ・  大学卒業後、内定を得ているものの、実際に就職して就労を開始するまでの間に一定の期間が生じる場合に、就職予定であることが証明されることを前提に、滞在を認めることを検討
 関係機関間の情報交換、連携の推進
 ・  「留学」に係る在留期間更新許可時に、外国人雇用サービスセンターの案内を配布
 ・  就職のために必要な情報を提供するため、外国人雇用サービスセンターや大学の留学生センターと共催でセミナーを開催すること等

 

 なお、大学における留学生の選抜方法の見直し等留学生の質の向上を図るための措置や、留学生政策全般に関することとして、文系・理系、学部・大学院といった違いに着目した施策を講ずるべきとの意見も出された。また、留学生の選抜に当たっては、日本留学試験の一層の活用が重要であり、同試験が実施される国の拡大の意義は大きい。日本に入国する留学生の中では中国出身者が最も多い状況にあるが、同国では日本留学試験が実施されていないことから、引き続き同国での実施に向けた努力がなされることが望ましい。

 

文化交流の拡大
(1) 訪日観光客の拡大
 訪日観光客拡大のための取組は、その経済的な効果のみならず、我が国に対する理解、親近感の増進が地域や草の根レベルでも進むこととなり、諸外国との相互理解、友好関係の深化等に資するものである。また、地方空港への国際定期便の就航や国際チャーター便の増加に伴って、日本の各地を訪れる外国人が増加しており、地域経済の活性化にも大きな影響を与えるものとなっている。政府においては、平成15年7月に観光立国行動計画を取りまとめ、徐々に増加してきている我が国を訪れる外国人観光客を現在の約500万人から(資料9)、平成22年(2010年)までに1,000万人に倍増させる計画を進めており、外国人観光客の円滑な受入れの実現に向けて、出入国管理行政としても貢献していく必要がある。
 他方、出入国管理行政の使命は、大多数の善良な外国人の円滑な受入れを図りつつ、テロリストや国際的な犯罪組織の構成員、不法就労を企図する者等の入国を水際において確実に阻止しなければならないという重大な責務も負っているところであり、前記行動計画の推進による入国者数の増加が予想される中で、一見相反する課題に対して的確に対応していく必要がある。
 そこで、外国人観光客等の受入れの円滑化と審査の厳格化の両立のため、既に入国管理局において取り組むこととしている事項(資料10)の着実な推進及び必要な体制の確保や、不法滞在の発生状況等問題の分析を通じたメリハリのある審査の実施のほか、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 バイオメトリクス(※)を活用した出入国審査体制の確立
 ・  バイオメトリクスの出入国審査への活用は、偽変造旅券行使者、テロリスト、国際手配された犯罪者等及び要注意外国人(被退去強制者等)の入国を阻止し、テロ・治安対策及び不法滞在者対策を効果的かつ効率的に行おうとするものであり、我が国の安全を確保する観点から、その活用を通じた審査体制の確立について検討。特に、米国においては旅行者に対して査証申請時及び入国審査時に指紋採取等を行っていることを参考にして、日本においても類似の制度、すなわち日本版「US-VISIT」の導入についても併せて検討
 ・  任意に指紋等を登録しようとする外国人旅行者に対して、そうした情報も登載した日本版「スマートカード」を発給し、迅速かつ厳格な出入国管理手続を行う方策を検討。なお、日本版「スマートカード」を利用する日本人については出・帰国手続を自動化することを併せて検討

 

 

 
 バイオメトリクス(生体情報認証技術)は、人間の身体的又は行動的特徴を読み取り、あらかじめ登録されている記録と照合する技術で、顔画像、指紋、光彩、署名、声紋などによる認証方法が研究・開発されている。

 

 
 査証免除対象国の拡大
 地方空港における体制の強化等訪日観光客の拡大に伴う出入国管理体制の強化

 

       なお,訪日観光客の拡大のため、例えば日本の伝統芸能の鑑賞時における外国語による解説の実施、複数の外国語による案内表示の充実等が重要であるとの意見も出された。また、犯罪者等問題のある外国人の水際阻止に当たっては、日本国内の空・海港での阻止にとどまらず、そうした外国人を我が国に「来させない」ことが必要であり、そのためには、在外公館での厳格な査証発給審査が併せて重要である。

 

(2) その他の文化交流の拡大のための施策
 ワーキングホリデー制度は、青少年交流の活発化、相互理解の促進に資するものである。また、我が国で開催される国際的な博覧会等の開催に際しての関係者や入場者の円滑な受入れを行うことも重要である。加えて、在留資格「文化活動」については、我が国特有の文化、技芸等について専門家の指導を受けて修得する場合に許可されるものであるが、我が国の伝統的な技芸等については国内にその継承者が不足しているのではないかとの指摘もある中で、こういった技芸等を修得しようとする外国人の円滑な受入れは重要である。そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 外務省等との連携を通じたワーキングホリデー制度の対象国の拡大
 個別の国際博覧会等に際して関係者を円滑に受け入れるための在留資格「特定活動」に係る告示の必要に応じた改正
 外務省等との連携を通じた国際博覧会等のイベントに入場しようとする観光客に対する査証免除の実施等円滑な受入れについての積極的な対応
 在留資格「文化活動」の活用事例の積極的な広報
 ・  我が国の伝統的な技芸等に関心を有する外国人は少なくないと思われることから、現に在留資格「文化活動」で在留する外国人に係る許可事例を外国語でホームページに掲載し、諸外国に向けて積極的に発信
 ・  外国語での許可事例の情報発信の際には、併せて資格外活動許可制度を含めた丁寧な制度説明が必要

 

 5  長期にわたり我が国に滞在する外国人への対応
(1) 永住許可の在り方
 我が国社会の一員として我が国の経済社会の活性化や発展に貢献し、また、我が国社会において諸外国・地域との関係の円滑化等に資する外国人のうち、我が国に永住することを希望する外国人に対しては、速やかに安定した法的地位である在留資格「永住者」が与えられることが望ましい。また、そのような希望を有する外国人が、積極的に永住許可申請を行えるような環境の整備も望まれる。
 ただし、永住を許可された外国人に対しては、在留期間更新時等の活動状況のチェックが行われなくなるほか、在留活動の制限もなくなることから、不正な手段を用いてその許可を求めるなどといった制度の濫用を企図する者を確実に排除することが重要である。そのためには、一般原則としては、永住許可申請時のみならず、その申請に至るまでの在留期間更新許可申請時等における在留活動の確認作業が必要であろう。
 そこで、永住許可の弾力化・円滑化を図るため、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 永住許可の要件の積極的な広報
 ・  現在、永住許可は、一定期間我が国に滞在した外国人が永住許可の申請を行い、素行が善良であること、独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること、そして「その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに」許可がなされることとなっており、日本国の利益に合すると認める場合の要件については既に公表されているところであるが、その要件の周知を徹底
 我が国への貢献による永住許可・不許可についての要件の明確化
 ・  永住許可・不許可の事例の紹介に加え、どのような外国人が「日本国の利益に合する」のか、永住許可に関する基準を明確化する措置を講じ、その基準を公開することによってガイドライン化を実施
 永住許可の一層の弾力化
 ・  過去の入国時の在留歴の通算や、地域社会への貢献の考慮等を含め、永住許可の要件である在留歴の弾力化を検討

 

外国人が住みやすい環境作りのために必要な措置等
 既に我が国には、人口の約1.5%に相当する約190万人の外国人が滞在しており(資料11)、その数は年々増加しているほか、今後更に専門性の高い外国人労働者の受入れを促進するとともに、我が国で知識、技術等を修得した留学生や研修生等が日本に対して引き続き関心を持ち、本国において日本の印象を伝えるなどする中で、我が国に在留する外国人にとって住みやすい環境を構築しておくことは非常に有益であることは言を俟たない。
 また、我が国に多数在留している日系人については、職場や日常生活の様々な場面でその能力を発揮することが我が国社会の活性化にも資するほか、日本人との草の根レベルの交流が進み、文化や慣習等についての相互理解や日本社会の多様化にも資する。他方で、これらの外国人については、例えば請負や派遣の形態で就労していることが多いとの指摘があり、雇用の調整弁として不安定な就労環境にあることが多いとも言われているほか、社会保険への未加入、子弟の未就学といった問題も指摘されており、こうした問題への対応も急務となっている。
 これらの外国人の在留に係る様々な環境整備の問題については、関係省庁、自治体、各企業、NGO等各種団体との連携を通じた対応が不可欠であり、出入国管理行政としても、可能な限りの貢献をしていくことが重要である。そこで、在留資格認定証明書交付申請時等における我が国での経費支弁能力に係る審査を引き続き徹底するほか、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 情報提供の推進等
 ・  関係機関等との情報交換の推進等連携の強化(例えば、各種団体や行政機関等を含めた地域単位の連携の場を構築し、相互の情報交換や、問題が生じた場合のアドバイス的側面も含めた幅広い情報提供の機会に参画することや、外国人が多数居住する地域に外国人が滞在する上での総合相談窓口を設け、職員を派遣すること等を検討)
 ・  地方自治体が配布している外国語による情報誌や、基本的な労働関係法令や具体的な相談事例等について解説した案内、ハローワークの案内等を地方入国管理局に置き、配布
 ・  抱えている問題ごとに相談すべき機関の連絡先を記載した資料等を関係機関で作成し、地方入国管理局に置き、配布
 ・  他の行政機関とリンクさせる、多言語による表示を行う等ホームページの機能を拡充

 

       なお、外国人が住みやすい環境の整備のため、外国人に対する外国人(母国語)による医療の提供の推進や、社会保障協定による年金通算制度の構築の推進のほか、日系人等に対する就労支援、日本語修得機会の増加への取組、未就学児童への対応等も重要であるとの意見も出された。
 ところで、日系三世等の外国人が該当する在留資格「定住者」については、これまでも我が国に在留する外国人の状況の変化に応じ、その範囲について見直しを行い、例えば日本人と離婚したものの日本人の実子を監護、養育しながら子供と共に日本に在留するケースについては、一定の要件の下で「定住者」の在留資格での在留を認めるなどの措置が執られている。今後とも、我が国に在留する外国人の状況の変化に応じた「定住者」の範囲の見直しを随時行っていくことが必要であろう。ただし、日系人の受入れについては、第三世代外国人、いわゆる日系三世等として本邦に在留している者の扶養を受ける未成年で未婚の実子の入国も認められているが、血統主義のみによる受入れは適当とは思われないという意見や、これらの者については前記のとおり子の教育、就労等に関する諸問題があり、まず国内の施策を整備し、受入れの環境を整えることが優先されるべきであるとの意見があった。

 

第3  不法滞在者問題への対応
 積極的な摘発、円滑な送還の実施等
 入国管理局の電算統計により推計される不法残留者は約22万人となっている。これまでの積極的な摘発や我が国経済の低迷などにより、その数は漸減傾向にあるものの依然として高水準であると言わざるを得ない(資料12)。また、我が国には密航船等により不法入国し潜伏している者が約3万人いると考えられ、これを合わせると我が国における不法滞在者数は約25万人と推計されている。これらの不法滞在者の存在は、犯罪の温床になっているとの指摘があるほか、不法就労している者自身の人権上の問題を惹起するおそれや、不法就労者を雇用することにより、事業主が競争上の不当な利益を受けているケースもある。加えて、こうした不法就労者の存在は、大多数の善良な外国人の円滑な受入れを阻害するものでもあり、治安の安定を求める国民の声に応えるためにも、平成20年までの間に不法滞在者を半減させるべく、あらゆる施策を総動員して不法滞在者対策を推進していくことが必要である。不法滞在者数が激減しないのは、不法滞在者を雇用する経営者やブローカーが依然として後を絶たないためとも考えられ、この点に焦点を当てた施策の推進も重要である。加えて、帰国希望の不法滞在者の出頭を促進するための施策の重要性も指摘したい。
 そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 関係機関と連携した積極的な摘発の推進
 不法就労者の雇用主やブローカーに対する不法就労助長罪の積極的な適用
 摘発・収容・送還体制の強化(民間活力の一層の活用を含む。)
 帰国希望の不法滞在者の出頭の促進
 ・  平成16年12月に施行された改正入管法による出国命令制度についての広報に努め、同制度の有効な活用を通じて帰国を希望する不法滞在者の出頭を促進
 関係国との連携強化
 ・  被退去強制者が有効な旅券を所持していない場合等における旅券の迅速な発給等迅速、確実な送還のための連携の推進

 

 2  法違反者の状況に配慮した取扱い
(1) 在留特別許可の在り方
 強力かつ効果的な不法滞在者対策を推進する必要がある一方で、不法滞在者の中には不法滞在以外の罪を犯しておらず、既に日本人と結婚して子供もおり、地域社会で良識ある社会人として生活している者もいる。このような不法滞在者の状況を的確に把握し、人道上の配慮を欠くことなく、在留特別許可の許否を決定していくことも重要である。
 在留特別許可の許否に当たっては、処分の性質上、その判断を行うに当たって法務大臣は広範な自由裁量を有するものとされ、あくまでも個別の事情を総合的に勘案してその許否が決定されているが、在留特別許可に係る予見可能性を高め、不法滞在者の出頭を促す観点からすれば、在留特別許可事例の公表は一応の目安を示すものとして一定の評価ができるものである。今後、その事例を充実させるとともに、更なる処分の透明性、公平性を図るための方策を検討していくことが重要である。ただし、このような事例の公表は、不法滞在の長期化や、それに伴う未就学児童の増加等につながるおそれもあることに配慮することも重要である。また、現行制度においては、在留特別許可を求める不法滞在者が、入管法違反事実を争わない場合であっても退去強制手続における全ての手続を経る必要があり、必ずしも効率的ではない。
 そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 在留特別許可の手続の簡素化
 ・  現在は、在留特別許可を求める不法滞在者が、入管法違反事実を全く争わない場合でも、違反調査、収容(仮放免)、違反審査、口頭審理、法務大臣の裁決の全てのステップを踏む必要があり、法的地位の早期安定化や行政効率等の観点から必ずしも好ましくないことから、適正手続の確保に留意しつつ、一定の事案については手続を簡素化する方策の検討が重要
 在留特別許可の判断基準の明確化(ガイドラインの策定)

 

       なお、不法滞在者を一律に合法滞在化するアムネスティについては、不法に滞在して就労していること以外の罪を犯していないような者は、一面において地域経済へ貢献しているとも言えることから、一定限度で認めるべきとする意見があった一方、「一度限り」との条件で実施したとしても、次回を期待する不法滞在者の流入及び不法滞在の長期化を誘発し、かえって事態を悪化させる大きな危険があるため、実施すべきではないという意見や、現に諸外国で実施した場合でも以後の不法滞在の状況は悪化している等の意見が表明された。

 

 
(2) )人身取引の被害者に対する配慮等
 人身取引は、他人を売春させて搾取することや強制的な労働をさせることなどを目的として暴力、脅迫、誘拐、詐欺、弱い立場の悪用などの手段を用いて人を採用、運搬、移送するなどの行為を指すが、このような人身取引は重大な人権侵害であり、決して許されるものではない、出入国管理行政としては、人身取引の水際防止のため、諸外国関係機関との情報交換を含めた連携強化や、被害者の状況に応じた在留特別許可等の弾力的な運用を含めた柔軟な対応など、被害者の保護のための方策(※)を講じていくことが必要である。また、これらの被害者の保護を一層充実し、確実なものとしていくため、法令改正を含め、必要な見直しを行っていくことが不可欠である。
 そこで、出入国管理行政として、この問題に取り組んでいくに当たり、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

 
 被害者の保護の観点からは、被害者の帰国等については、本人の希望を最優先し、早期帰国を望んでいる者については、本国への送還が迅速に行われているが、我が国での在留を希望する者については、人身取引の被害者であることも在留特別許可に当たって考慮すべき事情の一つとされている。

 

<検討すべき具体的な措置>
 入管法の改正
 ・  人身取引被害者の保護等のため、a人身取引の定義を明確にすること、b人身取引の結果、売春に従事するなどしていた者に対する上陸拒否事由や退去強制事由の見直し、c出身国に帰国させると生命、身体に危険がある被害者等を保護するための在留の許可などを内容とする入管法の改正が必要
 「興行」の在留資格の抜本的な見直し
 ・  「興行」の在留資格で入国した者の中には、人身取引の被害者がいるとの指摘があることから、この在留資格が人身取引に悪用されないための見直しを検討
 被害者を水際で発見し、保護するための水際対策の強化
 ・  「興行」の在留資格のみならず、人身取引の被害者が他の在留資格での入国を偽装するケースもあり得ることから、的確な審査のための事例分析等を推進
 人身取引の被害者の状況に応じた在留特別許可等の弾力的な運用
 人身取引事案について適正に対処するための職員に対する教育、訓練
 被害者や一般国民に対する広報、啓発活動の充実
 警察、女性相談所及びNGO等の関係機関との連携強化
 女性等の国際的な労働移動の問題を含めた諸外国との情報交換の推進

 

       なお、人身取引の被害者を保護するシェルターの充実や、人身取引のブローカーや雇用主などに対しては関係機関で連携した厳格な対応が必要であるとの意見も出された。

 

 
 3  上陸審査及び在留審査の厳格化と円滑化の両立
 不法就労を企図する者を入国させないことは重要であり、偽変造文書対策を含め、その施策も積極的に推進していくべきであるとの意見が表明された。特に、在留資格「短期滞在」で入国した者が不法滞在者の7割近くを占めるとのことであり、上陸審査時の対応は引き続き重要である。また、現に正規滞在者を装って我が国に滞在する者を排除することも必要不可欠であり、厳格な審査と問題のない案件の迅速な処理の両立が求められている。
 そこで、既に入国管理局において取り組むこととしている事項(資料10)のほか、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 バイオメトリクスを活用した出入国審査体制の確立(再掲)
 航空会社等運送業者の責任の在り方の整理
 ・  偽変造旅券の所持者等が我が国に不法に入国することを防止するため、我が国に乗り入れる航空機等に当該外国人が搭乗できないよう、航空会社等に対し、旅券等の事前確認義務を課すことを検討
 ・  航空会社等が有する乗員・乗客名簿のデータについては、その活用が厳格かつ円滑な出入国審査の実施に有益と考えられ,今後、その事前提供の義務化を検討
 入国・在留審査時における一層メリハリのある審査の実施
 実態調査の強化
 在留資格取消制度の活用
 必要な組織、体制の確保

 

第4  その他の主要な課題
 1  難民問題
 本懇談会は、平成15年12月に「難民認定制度に関する検討結果(最終報告)」を取りまとめ、法務大臣に提出し、同検討結果を踏まえた改正入管法については翌16年6月2日に公布されたところである。現在、公布の日から1年以内に施行される新たな難民認定制度の実施に向けて、入国管理局において最終的な準備を行っていると承知しており、同検討結果の趣旨が最大限活かされ、国民にとって分かりやすい制度運営が行われることを期待したい。

 
 2  国際会議への対応・国際協力の更なる推進
 本報告書において検討課題として掲げたテーマは、必ずしも我が国一国で対応し得るものではない。また、グローバル化の一層の進展に伴って、例えばテロ対策のような国際的な連携や協調により対応していく課題も増加しており、出入国管理行政もその例外ではない。今後、一層の国際協力を推進していくことの重要性が高まることも指摘しておきたい。

 

<検討すべき具体的な措置>
 国際的な枠組みでのテロ対策の強化
 外国の入管当局との情報交換の推進等連携強化
 ・  国境を越えるテロリストや犯罪者の移動に的確に対応して国内の安全を確保するとともに、世界的な秩序ある人の移動の促進に寄与していくため、入国審査等に資する情報の積極的な交換のための法的な根拠の創設について検討
 駐日大使館との連携強化
 ・  自国民保護の責務を負っている領事による当該国民に対する指導の実施の要請等

 

 3  来訪者の視点に立った業務の推進
 国内の空・海港を利用して出入国する外国人の数は年間1,000万人を超え、出帰国する日本人の数は年間3,000万人前後となっている。また、在留資格の変更や在留期間の更新等の在留審査業務件数は年間100万件を超えているが、これらの出入国・在留審査関係業務に従事する入国審査官は、全国でおよそ1,300人あまりとなっている。一人一人の入国審査官から見れば、一日に多数の日本人・外国人を相手にしているが、例えば空港等に到着した外国人から見れば、入国審査官は最初に接する日本人であり、その対応如何によっては、日本の印象にも影響を及ぼすこともある。「観光立国」を目指す我が国にとって、そのほとんどが善良な外国人観光客であるいわば「お客様」への適切な対応は一層重要となっている。また、我が国に在留する外国人の増加に伴い、在留審査関係の手続のために地方入国管理局等に来訪する外国人の数も高水準で推移しており、忙しい平日に来訪する外国人に対する適切な対応が重要であることは言を俟たない。問題のある外国人に対する厳格な対応は当然であるが、そうでない大部分の外国人に対する応接の一層の向上に取り組むことが不可欠である。
 そこで、例えば以下のような措置について検討することが重要である。

 

<検討すべき具体的な措置>
 地方入国管理局等の窓口の開設時間の拡大の検討等
 職員に対する研修の充実
 必要な組織、体制の確保(再掲)

 

第5  おわりに-第4次出入国管理政策懇談会報告書のむすびにかえて
 以上の事項について、出入国管理政策懇談会のメンバーは、引き続きその実施状況を見つめていきたいと考える。我が国の出入国管理行政をめぐる動きは一層その速度を速めることが予想されることから、そうした状況変化に応じて、記載した事項についても必要な意見を述べていくこととしたい。
 また、今回盛り込んだ事項は、出入国管理行政に携わる職員だけに求めるものではない。むしろ、これらの職員は我が国の安全と秩序を維持しつつ、外国人の円滑な受入れを図る観点から各種の制度の運営に従事するものであり、今回指摘した各種の利益の享受は、制度を利用する方々の意識にかかっているといっても過言ではなく、豊かな国民生活を享受し、我が国が持続的に発展していくための方策の一つとして、外国人労働者の適正な雇用や外国人との様々な交流に対する積極性が重要であることを最後に指摘しておきたい。各人が我が国の将来展望を見極めつつ、外国人とよりよく共生できる社会の実現を目指し,我が国の国際関係の発展・展開に寄与することによって、魅力ある自らの地位を確立することにつながると確信するものである。
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