1 出国命令制度の概要
退去強制手続においては、本邦からの出国を希望して自ら地方出入国在留管理官署に出頭した入管法違反者についても、摘発された場合と同様に収容をした上で一連の手続を行う必要がありますが、従前から、近日中に出国することが確実と認められるものについては、退去強制令書の発付後に自費出国許可(入管法第52条第4項)及び仮放免許可(入管法第54条第2項)を行った上で、事実上収容をしないまま本邦から出国させる措置が実施されていました。また、不法滞在者の大幅な削減のためには、その自発的な出頭を促進する必要もあります。そこで、平成16年の入管法改正において、入管法違反者のうち、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易な手続により出国させる出国命令制度が創設されました(同年12月2日施行)。
さらに、令和5年の入管法改正において、自発的な出国を更に促す観点から、出国意思をもって自ら出頭した場合に加え、入国審査官から退去強制事由に該当すると認定される前に速やかに本邦から出国する意思を表明した場合にも対象が拡大されました(令和6年6月10日施行)。
2 出国命令対象者(入管法第24条の3)
出国命令対象者は、不法残留者(入管法第24条第2号の4、第4号ロ又は第6号から第7号までのいずれかに該当する外国人)であることが前提ですが、加えて、以下の(1)から(5)のすべての要件を満たしていることが必要となります。
(1)ア又はイのいずれかを満たすことア 違反調査の開始前に速やかに本邦から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したものであること
(2) 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
(3) 窃盗罪等の一定の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと
(4) 過去に本邦から退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと
(5) 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
3 出国命令に係る審査(入管法第55条の84)
入国警備官は、容疑者が出国命令対象者に該当すると認めるに足りる相当の理由があるときは、入管法第39条第1項の規定にかかわらず、当該容疑者に係る違反事件を入国審査官に引き継ぐことになります。また、違反事件の引継ぎを受けた入国審査官は、当該容疑者が出国命令対象者に該当するかどうかを速やかに審査することになります。そして、入国審査官は、上記の審査の結果、当該容疑者が出国命令対象者に該当すると認定したときは、速やかに主任審査官にその旨を知らせることになります。
なお、入国審査官は、当該容疑者が出国命令対象者には該当せず、退去強制対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、その旨を入国警備官に通知するとともに、当該違反事件を入国警備官に差し戻すものとされており、差戻し後は、退去強制手続が執られることとなります。
4 出国命令(入管法第55条の85)
入国審査官から容疑者が出国命令対象者に該当する旨の通知を受けた主任審査官は、速やかに当該通知に係る容疑者に対し、15日を超えない範囲内で出国期限を定め、所定の出国命令書を交付して、本邦からの出国を命じることになります。また、主任審査官は、出国命令をする場合には、当該容疑者に対し、住居及び行動範囲の制限その他必要と認める条件を付することができます。
5 出国命令の取消し(入管法第55条の88)
主任審査官は、出国命令を受けた者が当該命令に付された条件に違反したとき(例えば、就労禁止の条件に違反して就労した場合等)は、当該出国命令を取り消すことができます。また、出国命令を取り消された者は退去強制の対象となるほか、出国命令を取り消された者で本邦に残留するものは刑事罰の対象となります。
6 出国期限が経過した場合の措置
出国命令に係る出国期限を経過して本邦に残留する者は退去強制の対象となるほか、刑事罰の対象となります。
7 出国命令を受けて出国した者の上陸拒否期間
出国命令を受けて日本から出国した者は、上記2(1)アの場合は、原則として出国した日から1年間は日本に入国できません。
また、上記2(1)イの場合は、短期滞在の在留資格で入国しようとするときは、原則として出国した日から5年間は日本に入国できません。それ以外の在留資格で入国しようとするときは、原則として出国した日から1年間は日本に入国できません。