Question 1
「働く」ってどういうこと?
会社で働くのも契約の一種といわれるけど、どういう内容の契約なんだろう?
働いて、お金をもらうというイメージだけど・・・。
ポイント
- あなたが働こうとするときは、通常は、使用者との間で「働きます」、「対価として給料を払います」という約束(=労働契約)をすることになります。
- これも契約の一種ですが、労働者保護の観点から、その内容に関して様々なルール(労働法規)が定められています。
- 労働者としての権利を自ら守るためには、そのようなルールをきちんと把握しておくことが大切です。
あなたがアルバイトを始めたり会社に就職するということは、あなた(労働者)とアルバイト先や会社(使用者)との間で、「働きます」、「給料を払います」という約束=労働契約を結ぶということです。
これも契約の一種ですので、その内容(勤務条件等)は、基本的には労働者と使用者の合意で決まります。
ただし、労働者は、給料を得て生計を立てていくためには使用者から提示された条件を受け入れざるを得ない場合があるなど、労働契約の内容を完全に当事者間の合意に委ねると、労働者が不利益を被るおそれがあります。そこで、労働契約については労働者を保護するためのルールを定めた法律があります。その代表例が、労働基準法や労働契約法です。
その内容はこれから詳しく説明しますが、例えば、
・労働者に不利な契約条項を無効とするルール
などが挙げられます。
このような労働者を保護するルールがあっても、その内容を知らなければ、法律上無効な条項に従ってしまい、結果として、自身の労働者としての権利が守られないことが起こり得ます。
自分の権利を守るために、このようなルールをきちんと把握しておくことが大切です。
Question 2
困ったときの相談先
ちょっと勉強し始めてみたけど、ルールがたくさんあって覚えきれないよ~。
全部覚える必要はないけど、困ったときに相談できる窓口を知っておくのは大切だね。
ポイント
- 労働に関するルールを全て覚えておくのは大変なことですが、相談に乗ってくれる様々な窓口が設けられているので、困ったときは相談してみましょう。
ここから、労働に関するルールの一部を説明していきますが、これらのルールを全て正確に覚えるのはとても大変です。
ですので、「あれ、ちょっと変だな?」と思ったときに、自分の労働者としての権利が守られているかどうかを確認するための政府の相談窓口があることを知っておくことが大切です。
● 総合労働相談コーナー
解雇、賃金引下げなどの労働条件の問題や、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、職場におけるパワーハラスメントなど、労働条件に関するあらゆる分野についての相談を受け付けています。
● 労働基準監督署
労働時間、賃金、解雇等の労働条件に関することや職場の安全や衛生に関すること、労災保険に関することについて相談を受け付けています。
労働条件相談ほっとライン(厚生労働省委託事業)
労働基準監督署などが閉庁している平日夜間や休日に、労働条件に関する電話相談を受け付けています。
※年末年始(12月29日から1月3日)はお休みです。
電話番号 : 0120-811-610
月〜金 17:00〜22:00
土日祝日 : 9:00〜21:00
厚生労働省作成の「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」[PDF形式:13,443KB]) 7~10ページにも働くことに関する相談窓口が紹介されていますので、こちらもご覧ください。
Question 3
「働く」前に気をつけるべきこと
働き始める前に気をつけなきゃいけないことって、なんだろう?
求人サイトなどで示されている条件と実際の契約内容が違うなんて話も聞いたことがあるよ。
ポイント
- 使用者は、労働条件のうち重要な事項について、書面で労働者に伝える義務を負っています。
- 求人の際の条件と実際の労働条件が同じかどうか、きちんと確認しておきましょう。
あなたが労働の対価としてもらう給料の額や、一日の労働時間、どれくらい休暇を取得できるか等は、原則として、労働契約が定める労働条件として決まっています。
労働条件は労働者にとってとても重要なものですので、労働基準法という法律により、使用者は労働者に対して、労働条件のうち重要な事項について、書面で労働者に伝える義務を負っています。
例えば、
①雇用期間
②仕事の内容
③労働時間
④賃金とその支払方法
⑤退職に関する事項
等がこの義務の対象になります。
また、求人の際に有利な条件が示されていても、実際の労働条件が異なるということがあるかもしれません。
求人の条件と実際の労働条件が異なる場合には、期間の定めがある場合であっても、労働者は直ちに労働契約を解約し、辞めることができます。
Question 4
「給料」に関するルール
志保ちゃんが前のアルバイト先で悩んでいたのが、これだね。
ポイント
- 給料については、①現金払いの原則、②直接払いの原則、③全額払いの原則、④毎月一回以上定期払いの原則が定められています。
- 契約で定められていなくても、法定の労働時間を超えた労働や、深夜労働に対しては、割増賃金が発生します。
- 労働契約で定められた給料は、原則として、使用者が一方的に引き下げることはできません。
- 労働者が罰金等の違約金を払うという定めが契約に含まれていたとしても、その定めは無効です。
仕事を選ぶに当たって、給料をいくらもらえるのかは重要なポイントになりますよね。
その給料の額も労働契約によって決まりますが、いくつか特別なルールがあります。
給料の支払いに関する特別なルール
○ 現金払いの原則
例えば、あなたがアルバイト先のアパレルショップから現金の代わりに服を給料として支給すると言われたら困ってしまいますよね。
このようなことを防ぐため、法律は、給料は原則として現金で支払わなければならないと定めています。
○ 直接払いの原則
給料は、基本的に労働者本人に対して直接支払わなければいけません。
つまり、使用者は労働者の代理人に対して給料を支払ってはいけません。労働者が未成年者の場合であっても、本人に給料を払わなければならず、その親に対して給料を支払ってはいけません。
○ 全額払いの原則
給料は、原則として全額支払わなければなりません。
「積立金」などの名目で、強制的に給料の一部を天引きして支払うことは禁止されています(もっとも、所得税や社会保険料など法令で定められているものの控除は認められています)。
○ 毎月一回以上定期払いの原則
「今月はちょっと厳しいから、来月2か月分払うね」と言われると、労働者の生活に支障が生ずるかもしれません。
このようなことを防ぐため、給料は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければいけないこととされています(ボーナス等は例外です)。
割増賃金に関するルール
一日の労働時間については法律で決まりがあり、1日8時間以内、1週間で40時間以内と決まっています(法定労働時間といいます)。
もっとも、所定の手続がとられた場合には、法定労働時間を超えて労働者を働かせることが可能ですが、その場合であっても、次のとおりの割合で割増賃金が発生します。
- ・時間外労働(法定労働時間を超える労働):25%以上
- ・休日労働(法定休日における労働):35%
- ・深夜労働(午後10時から午前5時までの深夜の労働):25%以上
例えば、午後10時から午後11時までの間、時間外労働として働いた場合には、これは深夜労働にも該当しますので、割増賃金の割合は50%以上になります。
※「固定残業代」って何?
労働契約の中には、この割増賃金(残業代)として、あらかじめ決まった額を支払うことが定められていることがあります。これは「固定残業代」といわれます。
この固定残業代については、例えば、「残業代として月2万円払う」ことが定められていれば、あとはいくら残業させても2万円しか払わなくてよい、と理解されていることがあるようですが、それは間違いです。
このような定めがあっても、実際の労働時間に基づく残業代が2万円を上回れば、使用者はその超過分も支払う必要があります。
給料は一方的に引き下げられない
これは契約全般について言えることですが、一度結んだ契約の内容は、原則として一方的に変更することはできません。
ですので、使用者が一方的に「今月の業績が厳しいから、今月の給料を減らすね」と言っても、法律上の効力はありません(労働者は、払われなかった分の給料を支払うよう請求することができます)。
※ なお、職場で「就業規則」が作成され、所定の手続がとられていた場合には、この就業規則の変更が合理的であれば、労働者の個別の同意なく契約条件が変更されることがあります。もっとも、「給料」が労働者にとって重要なものであることに鑑みて、これを減額する変更については、相応の合理性が求められると解されます。
違約金の定めの禁止
「労働者は一回遅刻したら罰金1万円を払う」、「労働者はノルマが達成できなければ、その未達成分の罰金を払う」などの合意をすることは、法律によって禁止されています。
したがって、たとえそのような条項が労働契約の中に含まれていたとしても、その条項は無効です。
もっとも、これは、労働者が故意や過失によって使用者に損害を与えた場合に免責されることまでを意味するものではありません。
例えば、アルバイト先の飲食店で不衛生な行為をし、その様子を撮った写真をSNSに投稿するなどして、アルバイト先の信用を傷つけた場合等は、アルバイト先に対して損害賠償義務を負うことがあります。
Question 5
休暇・休日に関するルール
アルバイトでも有休が取れるって、初めて知りました!
アルバイトであっても、労働者には変わりないんだよ。
ポイント
- 正社員かアルバイトか等にかかわらず、労働者は、一定の要件を満たせば、有給休暇を取得することができます。
- 使用者は、一定以上の時間、労働者を働かせる場合には、労働者に所定の休憩を与えなければいけません。
- 使用者は、労働者に1週間に少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければいけません。
休まずに長時間働き続けることは、自身の健康を害することにつながりかねません。休憩や休日をとることは、労働者の大切な権利の一つです。
年次有給休暇(年休)について
年次有給休暇(年休)とは、休日以外に休んでも賃金を払ってもらうことができる制度のことです。
年休の取得について労働契約に定められていることも多いですが、仮に労働契約に定められていなかったとしても、次の要件を満たす労働者は、法律上年休を取得する権利が付与されます。
- ① 6か月間の継続勤務
- ② 全労働日の8割以上の出勤
この要件を満たす労働者は、10日間の年休を取得することができ、勤続年数の増加に応じて、次のとおり年休の付与日数が増加していきます。
なお、上記の要件を満たせば、正社員だけでなく、アルバイトや派遣社員として働いている労働者も年休を取得することができ、また、週5日以上の勤務という要件を満たしていれば、年休は正社員と同じだけ付与されます。
休憩・休日について
使用者は、1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩を労働者に与えなければいけません。
なお、「休憩時間」とは、労働者が自由に利用できるものですので、休憩中に電話対応や来客対応を指示されている場合は、それは労働時間とみなされます。
また、使用者は、労働者に、①毎週少なくとも1回、または②4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないこととされています。
休日は労働義務が免除されている日ですので、使用者の都合で一方的に休日に労働者を呼び出すなどして働かせることはできません。
Question 6
退職に関するルール
「今日でクビだ」っていきなり言われちゃうと、困っちゃうね・・・。
使用者側が退職させる「解雇」と、労働者からする「退職の申出」では、ルールが違うのも注意が必要だね。
ポイント
- 使用者が労働者を一方的に辞めさせる「解雇」は、客観的に合理的な理由と社会的な相当性が認められなければ、無効です。
- 労働者が一方的に退職することができるかどうかは、契約期間の有無によっても異なります。
■解雇について
ある日「もう会社に来なくていいよ」と言われて解雇されてしまったら、その労働者は生計を立てる手段を失ってしまうことになります。
このように、使用者が自由に労働者を解雇できることとすると、労働者の生活はとても不安定なものになってしまいますので、使用者による解雇は、客観的に合理的な理由と社会的な相当性が認められる場合にのみ有効とされています(これを解雇権濫用の法理ということもあります。)。
実際に解雇が有効と認められるかどうかは個別の事情にもよりますが、仕事で一度ミスをしただけで直ちに解雇が認められる場合は多くはないと考えられます。
逆に、勤務態度が不良で業務命令等に違反するなど問題が多く、何度注意されてもそれが改善されないこと等は、解雇の有効性を基礎づける事情になり得ます。
また、有効な解雇の場合であっても、使用者は原則として少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の賃金(解雇予告手当)を労働者に支払う必要があります。
※有期契約の「雇止め」?
労働契約の期間中に解約する「解雇」と、期間が終了した労働契約の更新をしない「雇止め」は別のものです。
契約期間が終了した後、契約を更新するかは原則として当事者の自由なので、使用者が契約の更新をしないと判断すれば、契約がされないことになります。
もっとも、有期契約の更新が繰り返されてきた場合のように、実質的には期間の定めのない労働契約と同視できたり、労働者が雇用の継続を期待するのも無理がないといえるような場合には、「雇止め」をするために、客観的に合理的な理由と社会的な相当性が必要になります。
雇止めが認められなかった場合には、使用者が「更新しない」と言っていたとしても、同一の条件で労働契約が更新されることになります。
■労働者からの退職の申し出について
労働者の退職の申し出については、労働契約に期間の定めがあるかどうかが一つのポイントになります。
期間の定めがない労働契約の場合は、労働者はいつでも退職の申出をすることができます。
法律上は退職の申出をしてから2週間でその効果が発生しますが、労働契約でその期間が別途定められている場合もあるので、契約内容を確認しておきましょう。
これに対して、期間の定めがある労働契約の場合は、その期間中は、やむを得ない事情がなければ、退職することができません。
例えば、労働契約が1年であれば、原則としてその期間中に辞めることはできず、やむを得ない事情がある場合に限って辞めることができることになります。
いずれにせよ、退職をする際には、連絡もせずにいきなり会社に行かなくなるというようなことはルール違反ですので、基本的にはきちんと使用者に退職の意思を伝えるべきですし、必要であれば仕事の引継ぎなどもしなければなりません。
ただ、労働者の権利を害するような働かせ方をしている使用者に対して、必ずしもその了解を得ずに退職することができることも、覚えておきましょう。
Question 7
「多様な働き方」のメリット・デメリット
最近、「業務委託」や「請負」等の言葉を聞くことがあるなぁ。
それぞれメリットとデメリットがあるので、きちんと理解して選択することが大切だね。
ポイント
- 労働者としてではなく、いわゆる「フリーランス」として働くこともできますが、労働者を保護するためのルールが適用されないなどのデメリットもあります。
- きちんとその違いを理解して、働き方を選ぶことが大切です。
■「雇用」と「業務委託」、「請負」
これまでは、皆さんが使用者と「労働契約」を結び、労働者として働く場合を想定して、色々なルールを説明してきました。
ですが、皆さんは、雇用されて労働者として働く以外にも、「業務委託」や「請負」として仕事をして、お金を稼ぐことも可能です。
この「業務委託」や「請負」は、対等な事業主として依頼を受けて仕事をして、その仕事の成果に対してお金をもらうという性質の契約です。使用者の指揮命令に従わなければならないわけではないという点が、労働契約との違いです。
もっとも、注意しなければいけないのは、この「業務委託」や「請負」には、これまで説明してきた労働者保護のルールが原則として適用されないという点です。
また、次の章で説明する厚生年金保険等の制度の対象にもなりません。
多様な働き方を選択するにあたっては、そのメリットとデメリットをきちんと把握して、働き方を選ぶことが大切です。
第8話 解説
- アルバイトにもルールあり! -