第11話 解説

- 自己破産は最後の切り札? -

Question 1

「自己破産」ってどういうこと?

亜美ちゃん

「破産」という言葉は聞いたことがあるけど、具体的には何が起こるんだろう?

翔平くん

なんとなく、とても悪いことが起こるイメージがあるけど、本当はどうなんだろう。

ポイント

  • 破産手続とは、簡単にいうと、借りたお金を返せなくなった場合に、裁判所が任命した専門家(「破産管財人」といいます。)が破産した人(「破産者」といいます。)に代わって破産者の財産を管理し、その財産をお金に換えてもらい、これを債権者への支払に充てる手続です。
  • 破産手続は裁判所の決定で始まります。債権者が申し立てることもできますが、債務者が自分で破産を申し立てるのが「自己破産」です。
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自分の支払能力をちゃんと考えずにお金を借りたり、クレジットカードを利用したり、ということを続けていると、これから支払わなければならない金額がふくれ上がり、がんばっても継続して支払っていくことができなくなります。また、様々な事情で、支払えないほど多額のお金を支払わなければならなくなってしまうこともあります(病気で働けなくなり、生活のための借金が増えたなど。)。破産手続は、このような債務者を経済的に立ち直らせることなどを目的とする手続です。
破産手続を始めるかどうかを判断するのは、裁判所です。破産手続が始まると、正式な手続としては、裁判所が破産管財人を選任します。破産手続が開始された時点で破産者が持っていた財産は、原則として全て破産管財人が管理し、売却するなどしてお金に換えた上で債権者への支払に充てられる(債権者に分配される)ことになります(ただし、それだけの財産がない場合には、破産管財人が選任されることなく手続が終了します(同時廃止といいます。Q3参照)。一般の個人の場合、同時廃止も多いです。)。
それでも返しきれなかった債務は、裁判所の許可があると、「免責」といって、法律上は支払う義務がなくなります。ただし、破産に至った原因によっては免責が許可されない場合もありますし、免責の対象にならない債務もあります。詳しくは5Q5をご覧ください。
破産手続は、債権者が裁判所に申し立てることもできますが、債務者が自分自身の破産手続を開始するように裁判所に申し立てることもできます。債務者が自分自身で申し立てることを「自己破産」などといっています。

Question 2

どんな財産が債権者への支払に充てられるの?

翔平くん

なるほど、破産というのは、破産した人の財産を支払に充てる制度なんだね。

亜美ちゃん

破産した人の財産は、すべて支払に充てられることになるのかな?

ポイント

  • 破産手続が始まった時点で破産者が持っていた財産は、原則として全て破産管財人が管理し、お金に換えた上で、債権者への支払に充てられます。
  • ただし、生活に最低限必要なお金や生活用品などは、破産者の手元に残されます。
  • 破産手続が始まった後に破産者が取得した財産は、破産者がその後自由に使うことができ、債権者への支払には充てられません。
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破産手続は、簡単にいうと、破産した人の財産を破産管財人が全て売却するなどしてお金に換え、債権者への支払に充てる手続です。その対象となる財産は、原則として、破産手続が始まった時点で破産者が持っていた財産全部です。破産手続が始まると、破産者は、裁判所に対して、所有する不動産、現金、預貯金などの内容を明らかにしなければなりません。
しかし、破産者が個人の場合、全財産を失うと日常生活が立ちゆかなくなってしまいますので、一定の財産は債権者への支払に充てられず、破産者の手元に残されます。例えば、生活に不可欠な衣類や日用品、99万円までの現金などは、債権者への支払には充てられません。また、公的な保険の給付金債権や生活保護を受ける権利なども破産者が行使でき、その給付金などは債権者への支払には充てられません。
債権者への支払に充てられるのは、破産手続が始まった時点で破産者が持っていた財産ですので、その後に破産者が取得した財産は債権者への支払には充てられません。例えば、破産手続開始後に破産者が働いて得た給料や、破産手続開始後に破産者の親族が死亡して得た相続財産は、債権者への支払には充てられません。

Question 3

債権者への支払に充てる財産がなかったらどうなるの?

翔平くん

自己破産をしないといけないときって、何も財産は残っていないっていうイメージだよね。

亜美ちゃん

債権者への支払に充てる財産が何もないときは、どうなるんだろう?

ポイント

  •  破産手続は、破産者の財産をお金に換えて債権者への支払に充てる制度ですから、債権者への支払に充てる財産がない場合には、進める意味がありません。そのような場合には、破産手続は、開始されると同時に終了します。
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Q1にあるように、破産手続は、簡単にいうと、破産者の財産を売却するなどしてお金に換え、債権者への支払に充てる手続です。債権者への支払に充てる財産がない場合には、破産手続の中ですべきことが何もないことになります。そのため、破産手続を進める意味はなく、破産手続が開始されると同時に終了します。これを同時廃止といいます。
同時廃止になった場合、破産管財人が選任されて破産者の財産を管理するということはなく、同時廃止後は、免責が認められるかどうか(Q4参照)だけが問題になります。
破産管財人に財産を管理されることがなく、直ちに手続が終わることもあって、同時廃止の方が負担が少ないと思う人もいるかもしれません。しかし、本当は財産があるのに同時廃止にしてもらうために財産を隠したり、裁判所から聞かれたことにウソの説明をしたりすると、罪に問われたり、免責が許可されないこともあります。

Question 4

免責ってどういうこと?

翔平くん

免責っていうのは、借りたお金を払わなくてよくなるということなのかな。

亜美ちゃん

免責されない場合もあると聞いたことがあるけど・・・。

ポイント

  • 破産者の財産を債権者への支払に充てた上で返しきれなかった債務については、裁判所の許可があれば、法律上は支払わなくてもよいことになります。これを「免責」といいます。
  • 破産に至った原因がギャンブルやぜいたく品の購入などの浪費である場合や、免責を受けた後7年以内に再び破産してしまった場合などには、免責が許可されないことがあります。
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破産者が個人である場合、その財産をお金に換えて債権者への支払に充てても返しきれなかった債務については、裁判所の許可があれば、破産者は、法律上はその支払義務を免れることができます。これを「免責」といいます。なお、支払義務を免れるのは、破産手続が始まる前の契約などから負った債務(破産手続が始まる前に借りたお金を返す義務など)に限られます。破産手続が始まった後に買い物をして代金を支払う義務を負った場合、この債務は引き続き支払わなければなりません。
免責という制度は、経済活動に失敗した人に再出発の機会を与えようとするものです。このような制度が設けられたのは、支払能力を超えた債務から解放して経済的な再出発を図ることが社会公共の利益にも合致するという考え方に基づいています。
債務者が自分で破産手続の開始を裁判所に申し立てた場合、原則として、併せて免責許可の申立てをしたことになります。もっとも、免責は常に許可されるわけではありません。破産に至る原因や、破産手続において不誠実な態度を採った破産者に対しては、免責が認められない場合があります。具体的には、借金の原因が浪費や賭博であることは、免責不許可事由に当たります。また、破産手続において裁判所に嘘をついたり、破産管財人の仕事を妨害したり、債権者の利益を害するために財産を隠したり、一部の債権者にだけ支払をしたりしたことも、同様です。

Question 5

免責の許可がされても支払わないといけない債務もあるの?

マスター

特定の種類の債務については、免責を受けても支払わなければならないんだよ。

ポイント

  • 免責の許可を受けても、支払わなければならない債務があります。
  • 次のような債務がこれに当たります。
    - 破産者が悪意でした不法行為に基づく損害賠償請求権
    - 故意や重過失で他人の生命身体を傷つけた場合の損害賠償請求権
    - 養育費 など
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免責が許可されると、原則として、債務を支払わなくてもよくなります。しかし、法律で決められた特定の債務については、引き続き支払わなければなりません。
例えば、次のような債務がこれに当たります。

破産者が悪意でした不法行為に基づく損害賠償請求権

人を傷つけようとしてその権利を侵害した場合に、その相手方の損害を賠償する義務です。例えば、人からお金をだまし取った場合に、だまされた人の損害を賠償する義務などです。

故意や重過失で他人の生命身体を傷つけた場合の損害賠償請求権

人の生命や身体を傷つけた場合、故意があったときのほか、重過失があったときも、その損害を賠償する債務は免責されません。お酒を飲んで車を運転し、人をけがさせた場合に、けがをした人の損害を賠償する義務などがこれに当たります。

破産手続が始まる前に生じていた税金

自分の子供に対する養育費

罰金

Question 6

破産にはデメリットもあるの?

あみ

破産して借金を返さなくてよくなるだけなら、メリットしかないけど・・・

翔平

でも、破産したら、もうお金を貸してくれる人がいなくなるんじゃないかな。

ポイント

  • 破産手続には、手続が終わっても、ローンを組んだりクレジットカードを作ったりすることが難しくなるなどの不利益があります。
  • 破産したことが公に明らかにされたり、破産手続が続いている間、居住地から離れる自由や通信の秘密が制約されたり、一定の職業に就くことができない、という不利益もあります。
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破産することの最も大きなデメリットは、法律で定められたものではありませんが、事実上、自分の経済力に対する信頼を失ってしまうということです。十分な支払能力のない人だと思われてしまうと、その後、お金を貸したり、後から代金を支払ってもらうという約束で取引に応じたりしてくれる人がいなくなってしまうおそれがあります。例えば、住宅ローンを借りようとしても審査で落ちてしまったり、クレジットカードを作れなくなってしまう可能性が高くなります。
このほか、法律上、破産すると権利や資格が制約されることなどがあります。例えば、次のようなことが挙げられます。

・破産手続が開始されると、破産者の氏名や破産手続が開始されたことが官報で公告されます。債権者が破産手続で権利を行使する機会を与えるためのものです。
・破産手続が続いている間は、居住地を離れるためには裁判所の許可を得る必要があります(許可が必要となるのは、例えば親族の冠婚葬祭などで数日間遠方に行く場合などであり、許可がない限り一歩も自宅を離れてはいけないということではありません。)
・破産管財人は、破産者宛の郵便物を破産管財人に転送させ、その郵便物を読むことができます。
・破産手続が続いている間は、一定の職業に就くことができません。例えば、弁護士、公認会計士、税理士などのほか、貸金業、建設業、宅地建物取引業、証券会社の外務員、警備員などについて、資格制限が設けられています。

Question 7

破産以外の債務整理は?

マスター

破産の手続以外にも、債務を整理するための手続があるんだよ。

ポイント

  • 破産のほか、債務を整理するための手続として、私的整理(任意整理)、特定調停、民事再生手続などがあります。  
  • 私的整理(任意整理)、特定調停は、債権者との話し合いによって、債務を一部免除してもらったり支払期限を延ばしてもらったりするための手続です。  
  • 民事再生手続は、債権者の多数決により、債務を一部免除してもらったり支払期限を延ばしてもらったりするための手続です。
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借金が積み重なったときに利用することができる手続は、破産手続のほかにも、私的整理(任意整理)、特定調停、民事再生手続などがあります。
私的整理(任意整理)は、債権者との間の合意に基づき、債務を一部免除してもらったり、返済期限を延ばしてもらったりして、今後の返済計画を立て、これに従って返済をしていくことです。裁判所の手続を使わず、債権者との交渉によって新しい返済計画を立てるものです。合意に基づくものですので、債権者に同意してもらう必要があります。
特定調停は、裁判所での調停手続を利用して、債務を一部免除してもらったり返済期限を伸ばしてもらったりして、返済計画を立てようとするものです。裁判所が債務者と債権者の間を取り持ってくれますが、これも債権者との間で合意する必要があります。
民事再生手続は、破産手続と同じく、裁判所が関与する倒産処理手続の一つです。継続的に収入を得る見込みがある場合には、債務の一部免除や返済時期の変更などを内容とする再生計画を立て、裁判所の認可が得られた場合にはその効果が生じます。民事再生手続を利用した場合、破産手続と異なり、債務者が持ち家を残すことも可能な場合があります。

Question 8

借金を支払えないと思ったら気をつけること

亜美ちゃん

実際に、カードの使い過ぎなどで、お金を払えなくなったら、どうすればよいんだろう?

ポイント

  • 支払えなくなったと思ったら、できるだけ早く信頼できる専門家に相談することが必要です。  
  • 専門家や裁判所からの問合せ、指示には誠実に対応することが必要です。  
  • 財産を隠したり、一部の債権者に対してだけ支払をしたりしてはいけません。
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借金がふくらんで支払えなくなったというのは他人には言いにくいことですし、債権者に迷惑をかけてしまうという思いから、なかなか具体的な手続を取ることができない人もいると思います。しかし、専門家に相談するなどして借金が積み重なった原因を根本的に改善しなければ、事態はどんどん悪化してしまう可能性があります。支払っていくのが難しいと思った場合は、できるだけ早く信頼できる専門家に相談することが必要です。
専門家に相談する場合には、言いにくいことかも知れませんが、借金がふくらんだ原因や経緯など、正直に話すことが必要です。ウソをつくと、適切なアドバイスができない場合があります。破産や民事再生など裁判所の手続を利用する場合は、裁判所や破産管財人などの問合せに対しても、正直に話すことが必要です。
財産を隠したり、一部の債権者に対してだけ支払をしたりすると、不利益を受ける場合があります。その後の経済的な再出発のためにも、このようなことはしないようにしましょう。

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